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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 三ツばかり、どうん、どうん、と屋根へ打附《ぶつか》ったものがあった……大《おおき》な石でも落ちたようで、吃驚《びっくり》して天井を見上げると、彼処から、と言わしっけ。仁右衛門、それ、の、西の鉢前の十畳敷の隅ッこ。あの大掃除の検査の時さ、お巡査様《まわりさま》が階子《はしご》さして、天井裏へ瓦斯を点けて這込まっしゃる拍子に、洋刀《サアベル》の鐺《こじり》が上って倒《さかさま》になった刀《み》が抜けたで、下にいた饂飩屋の大面《おおづら》をちょん切って、鼻柱怪我アした、一枚外れている処だ。
 どんと倒落《さかおと》しに飛んで下りたは三毛猫だあ。川の骸と同じ毛色じゃ、(これは、と思うと縁へ出て)……と客人の若《わけ》え方が言わっしゃったで、私《わし》は思わず傍へ退いたが。

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