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 『歌行燈』 従吾所好

 尤も、私が、あの、鳥羽の海へ投入れられた、其の身の上も話しました。其の方は不思議な事で、私とは敵のやうな中だ事も、種々入組んでは居りますけれど、鼓ヶ岳の裾の話は、誰にも言ふな、と口留めをされました。何んにも話がなりません。
 五日目に、最う可いから、此を舞つて座敷をせい。芸なし、とは言ふまい、ツて、お記念〈かたみ〉なり、しるしなりに、此の舞扇を下さいました。」
 と袖で胸へ緊乎〈しつか〉と抱いて、ぶる/\と肩を震はした、後毛がはらりと成る。

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