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 『義血侠血』 青空文庫

「そこで、こいつを拘引して調べると、これが出刃打ちの連中だ。ところがね、ちょうどその晩兼六園の席貸しな、六勝亭、あれの主翁《あるじ》は桐田という金満家の隠居だ。この夫婦とも、何者の仕業《しわざ》だか、いや、それは、実に残酷に害《や》られたというね。亭主は鳩尾《みぞおち》のところを突き洞《とお》される、女房は頭部《あたま》に三箇所、肩に一箇所、左の乳の下を刳られて、僵《たお》れていたその手に、男の片袖を掴んでいたのだ」
 車中声なく、人は固唾を嚥みて、その心を寒うせり。まさにこれ弁者得意の時。
「証拠になろうという物はそればかりではない。死骸のそばに出刃庖丁が捨ててあった。柄の所に片仮名のテの字の焼き印のある、これを調べると、出刃打ちの用《つか》っていた道具だ。それに今の片袖がそいつの浴衣に差違《ちがい》ないので、まず犯罪人はこいつとだれも目を着けたさ」

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