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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 とたんに鉄棒空に躍つて頭を目懸けて曳《えい》!と下す。さしつたりと身を交せば、狙ひ外れて発奮《はずみ》を打ち路傍の岩を真二つ。石鉄《せきてつ》戞然《かつぜん》火花を散らしぬ。こは彼の悪僕八蔵が、泰助に尾《び》し来りて、十分油断したるを計り、狙撃《ねらひうち》したりしなり。僥倖《さいはひ》に鏡を見る時、後に近接《ちかづく》曲者映りて、さてはと用心したればこそ身を全《まつた》うし得たるなれ。
 「了つた。と叫びて八蔵が、鉄棒を押取《おつとり》直すを、泰助ははつたと睨《ね》め付け、「御用だ。と大喝一声、怯《ひる》む処を附け入つて、拳の電《いなづま》手錬のあてに、八蔵は急処を撲《う》たれ、踏反《ふんぞ》りて、大地は〓《どう》と響きけり。

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