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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「月夜に暗殺、馬鹿/\しい、と打笑ひつゝ泰助は曲者の顔を視めて、「おや、此奴は病院へ来た奴だ。城の手下に違ひないが、ふむ敵はもう我《おれ》が来たことを知つてるな。こりや油断がならぬ哩《わい》。危険々々《けんのん/\》、ほんの一機《ひといき》で此石の通りになる処、馬鹿力の強い奴だ。と舌を巻きしが、「待て、何ぞ手懸りになる様な、掘出し物があらうかも知れぬ。と斯る折にも油断なく八蔵の身体を検して腰に附けたる鍵を奪ひぬ。時に取りては千金にも勝りたる獲物ぞかし。之あらば城家へ入込むに便あり造化至造妙《しあわせよし》と莞爾《につこ》と頷き、袂に納めて後をも見ず比企が谷《やつ》の森を過ぎ、大町通つて小町を越し、坐禅川を打渡つて――急ぎ候ほどに、雪の下にぞ着きにける。

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