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『歌行燈』
従吾所好
アラ、ドツコイシヨ、
と沖の浪の月の中へ、颯と、撥を投げたやうに、霜を切つて、唄ひ棄てた。……饂飩屋の門〈かど〉に博多節を弾いたのは、転進〈てんじん〉を稍々縦に、三味線の手を緩めると、撥を逆手に、其の柄で弾くやうにして、仄のりと、薄
赤
い、其屋〈そこ〉の板障子をすらりと開けた。
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