検索結果詳細


 『人魚の祠』 青空文庫

 向つて左の端に居た、中でも小柄なのが下して居る、棹が満月の如くに撓《しな》つた、と思ふと、上へ絞つた糸が真直に伸びて、するりと水の空へ掛つた鯉が――」
 ――理学士は言掛《いひか》けて、私の顔を視て、而《そ》して四辺《あたり》を見た。恁うした店の端近は、奥より、二階より、却つて椅子は閑《しづか》であつた――
「鯉は、其は鯉でせう。が、玉のやうな真白な、あの森を背景にして、宙に浮いたのが、すつと合せた白脛《しろはぎ》を流す……凡そ人形ぐらゐな白身《はくしん》の女子の姿です。釣られたのぢやありません。釣針をね、恁う、両手で抱いた形。

 63/122 64/122 65/122


  [Index]