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『国貞えがく』 青空文庫
辻の、この辺《あたり》で、月の中空《なかぞら》に雲を渡る婦《おんな》の幻を見たと思う、屋根の上から、城の大手の森をかけて、一面にどんよりと曇った中に、一筋真白な雲の靡くのは、やがて銀河になる時節も近い。……視《なが》むれば、幼い時のその光景《ありさま》を目前《まのあたり》に見るようでもあるし、また夢らしくもあれば、前世が兎であった時、木賊《とくさ》の中から、ひょいと覗いた景色かも分らぬ。待て、希《こいねがわ》くは兎でありたい。二股坂の狸は恐れる。
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