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『義血侠血』 青空文庫
欣弥はこの体を見るより、すずろ憐愍《あわれ》を催して、胸も張り裂くばかりなりき。同時に渠はおのれの職務に心着きぬ。私をもって公に代えがたしと、渠は拳を握りて眼を閉じぬ。
やがて裁判長は被告に向かいて二、三の訊問ありけるのち、弁護士は渠の冤《えん》を雪がんために、滔々数千言を陳《つら》ねて、ほとんど余すところあらざりき。裁判長は事実を隠蔽せざらんように白糸を諭せり。渠はあくまで盗難に遭いし覚えのあらざる旨を答えて、黒白は容易に弁ずべくもあらざりけり。
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