検索結果詳細


 『義血侠血』 青空文庫

 やがて裁判長は被告に向かいて二、三の訊問ありけるのち、弁護士は渠の冤《えん》を雪がんために、滔々数千言を陳《つら》ねて、ほとんど余すところあらざりき。裁判長は事実を隠蔽せざらんように白糸を諭せり。渠はあくまで盗難に遭いし覚えのあらざる旨を答えて、黒白は容易に弁ずべくもあらざりけり。
 検事代理はようやく閉じたりし眼を開くとともに、悄然として項を垂るる糸を見たり。渠はそのとき声を励まして、
「水島友、村越欣弥が……本官があらためて訊問するが、裹《つつ》まず事実を申せ」

 687/706 688/706 689/706


  [Index]