検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

「もしか、按摩が尋ねて来たら、堅く居らん、と言へ、と宿のものへ吩〈いひ〉附けた。叔父のすや/\は、上首尾で、並べて取つた床の中へ、すつぽり入つて、引被つて、可心持に寝たんだが。
 あゝ、寝心の好い思ひをしたのは、其晩切さ。
 何故ツて、宗山が其の夜の中に、私に辱められたのを口惜しがつて、傲慢な奴だけに、ぴしりと、もろい折方、憤死して了つたんだ。七代まで流儀に祟る、と手探りでにじり書した遺書〈かきおき〉を残してな。死んだのは鼓ヶ岳の裾だつた。あの広場の雑樹へ下つて、夜が明けて、漸ツと小止〈こやみ〉に成つた風に、ふら/\とまだ動いて居たとさ。

 687/744 688/744 689/744


  [Index]