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 『義血侠血』 青空文庫

 されども危急の際この頼もしさを見たりしは、わずかにくだんの美人あるのみなり。他はみな見苦しくも慌て忙《ふため》きて、あまたの神と仏とは心々に祷《いの》られき。なおかの美人はこの騒擾の間、終始御者の様子を打ち瞶《まも》りたり。
 かくて六箇《むつ》の車輪はあたかも同一《ひとつ》の軸にありて転ずるごとく、両々相並びて福岡というに着けり。ここに馬車の休憩所ありて、馬に飲《みずか》い、客に茶を売るを例とすれども、今日ばかりは素通りなるべし、と乗り合いは心々に想いぬ。

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