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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
爾時《そのとき》は幸《さいわい》に、当人、手に疵をつけただけ、勢《いきおい》で壊したから、火はそれなり、ぱったり消えて、何の事もありませんでしたが、もしやの時と、皆が心掛けて置きました、蝋燭を点けて、跡始末に掛ると、さあ、可訝《おかし》いのは、今の、怪我で取落した小刀《ナイフ》が影も見えないではありませんか。
驚きました。これにゃ、皆が貴僧《あなた》、茶釜の中へ紛れ込んで祟るとか俗に言う、あの蜥蜴の尻尾の切れたのが、行方知れずに成ったよりよっぽど厭な紛失もの。襟へ入っていはしないか、むずむずするの、褌へささっちゃおらんか、ひやりとするの、袂か、裾か、と立つ、坐る、帯を解きます。
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