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 『婦系図』 青空文庫

 まあ、何は措《お》いて、嫁の内の財産を云々《うんぬん》するなんざ、不埒の到《いたり》だ。万々一、実家《さと》の親が困窮して、都合に依って無心合力《ごうりょく》でもしたとする。可愛い女房の親じゃないか。自分にも親なんだぜ、余裕があったら勿論貢ぐんだ。無ければ断る。が、人情なら三杯食う飯を一杯ずつ分《わけ》るんだ。着物は下着から脱いで遣るのよ。」
 と思い入った体で、煙草を持った手の尖《さき》がぶるぶると震えると、対手の河野は一向気にも留めない様子で、ただ上の空で聞いて首《こうべ》だけ垂れていたが、かえって襖の外で、思わずはらはらと落涙したのはお蔦である。

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