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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
耳を澄ますと、蚊帳越の障子のようでもあり、廊下の雨戸のようでもあり、次の間と隔ての襖際……また柱の根かとも思われて、カタカタ、カタカタと響く――あの茶立虫とも聞えれば、壁の中で蝙蝠が鳴くようでもあるし、縁の下で蟇が、コトコトというとも考えられる。それが貴僧《あなた》、気の持ちようで、ココ、ココ、ココヨとも、ココト、ともいうようなんです。
自分のだけに、手を繃帯した水兵の方が、一番に蚊帳を出ました。
返す気で、在所《ありか》をおっしゃるからは仔細はない、と坊さんがまた這出して、畳に擦附けるように、耳を澄ます。と水兵の方は、真中で耳を傾けて、腕組をして立ってなすったっけ。見当がついたと見えて、目で知らせ合って、上下で頷いて、その、貴僧《あなた》の背後《うしろ》になってます、」
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