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 『歌行燈』 従吾所好

 細長い土間の一方は、薄汚れた縦に六畳ばかりの市松畳、其処へ上れば坐れるのを、釜に近い、床几の上に、ト足を伸ばして、
「何うもね、寒くつて堪らないから、一杯御馳走に成らうと思つて。えゝ、親方、決して其の御迷惑を掛けるもんぢやありません。」
 で、優柔〈おとな〉しく頬被りを取つた顔を、唯〈と〉見ると迷惑処かい、目鼻立ちのきりゝとした、細面の、瞼に窶は見えるけれども、目の清らかな、眉の濃い、二十八九の人品〈ひとがら〉な兄哥〈あにい〉である。

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