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 『五大力』 従吾所好

 と言不。左手〈ゆんで〉に取つて、肩なぞへに袖の筋柔かに、小弥太に向けて翳して見せた。……時に蝋の如く色沈んで、空しき瞳を恍惚〈うつとり〉、眉ばかり、ほんのり浮く。頬のあたり薄りと玉の雫の血が通つて、死顔ながら莞爾した、白歯もちら/\と〓〈らふ〉闌けた、得も言はれぬ唇に、濃い紅の紅の色が、霜に颯と薄く冴え、もの凄いまで美しい。知らぬ昔の小町の首を女性が、其の衣紋も等閑〈なほざり〉な袖口開けて、面を取つて、差向けた時、手首白く、二の腕透いて伸びたので、恰も、白鷺の長き頸に、其の青褪めた美女、活きたる首を、みだれ髪で繋いで掛けた風情であつた。……
 見紛ふ方なき浮草小町の面である。
 されば、天の簪の、明星の如く、夜行く人の黒髪を照らすと見たのは、名工の鑿の光が、細工に篭つた燐火〈おにび〉であつた。蒼い影は、時に、女性の鬢を辷つて、手にした面の其の黛を、どんより照らして、雲の如き下髪〈さげがみ〉の描ける額を宙に映す。……

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