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 『春昼』 泉鏡花を読む

 此の石段は近頃すつかり修復が出来た。(従つて、爪尖のぼりの路も、草が分れて、一筋明らさまになつたから、もう蛇も出まい、)其時分は大破して、丁ど繕ひにかゝらうといふ折から、馬は此の段の下に、一軒、寺といふほどでもない住職の控家がある、其の背戸へ石を積んで来たもので。
 段を上ると、階子が揺はしまいかと危むばかり、角が缺け、石が抜け、土が崩れ、足許も定まらず、よろけながら攀ぢ上つた。見る/\、目の下の田畠が小さくなり遠くなるに従うて、波の色が蒼う、ひた/\と足許に近づくのは、を抱いた恁る山の、何処も同じ習である。

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