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 『春昼』 泉鏡花を読む

 段を上ると、階子が揺はしまいかと危むばかり、角が缺け、石が抜け、土が崩れ、足許も定まらず、よろけながら攀ぢ上つた。見る/\、目の下の田畠が小さくなり遠くなるに従うて、波の色が蒼う、ひた/\と足許に近づくのは、海を抱いた恁る山の、何処も同じ習である。
 樹立ちに薄暗い石段の、石よりも堆い青苔の中に、あの蛍袋といふ、薄紫の差俯向いた桔梗科の花の早咲を見るにつけても、何となく湿つぽい気がして、然も湯瀧のあとを踏むやうに熱く汗ばんだのが、颯と一風、ひや/\となつた。境内は然まで広くない。

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