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 『五大力』 従吾所好

 しかし、駿河台の裏小路の日中の戸外〈おもて〉へ、其の人声の、力強く、漲るが如くに響いたも道理。座敷に集つた見舞の連中、いづれも能楽界屈竟な若手の面々。で、卓子台を二個〈ふたつ〉繋いで、四人づらりと紋着を揃へて、ビイルの瓶やら銚子やら。……病人で取込みの所、肴らしいものも無かつたけれども、二種三種〈ふたいろみいろ〉。で、……珍らしく髪を結たてのお縫が、茶の間にお燗番と云ふのを勤めて、叔母は台所を指図して居るらしい。
 其の人々が、膝突合はて、肩を寄合つて取巻いた卓子台の片端に、一人ぐつたりと手を支いて、それでも些と飲〈まゐ〉つたか、耳朶をくして、釣船矢右衛門……控へてござる。

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