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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「宵には何事もありませんでした。可い塩梅な酔心地で、四方山の話をしながら、螽《いなご》一ツ飛んじゃ来ない。そう言や一体蚊もおらんが、大方その怪物《ばけもの》が餌食にするだろう。それにしちゃ吝な食物だ――何々、海の中でも親方となるとかえって小さい物を餌にする。鯨を見ろ、しこ鰯だ、なぞと大口を利いて元気でしたが、やがて酒はお積りになる、夜が更けたんです。
 茲でお茶という処だけれど、茶じゃ理に落ちて魔物が憑《つ》け込む。酔醒にいいもの、と縁側から転がし出したのは西瓜です。聞くと、途中で畑盗人《はたけどろぼう》をして来たんだそうで――それじゃかえって、憑込《つけこ》もうではありませんか。」

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