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 『絵本の春』 青空文庫

 つい目の前を、ああ、島田髷《しまだまげ》が流れる……緋鹿子《ひがのこ》の切《きれ》が解けて浮いて、トちらりと見たのは、一条《ひとすじ》の真赤《まっか》な蛇。手箱ほど部の重《かさな》った、表紙に彩色絵《さいしきえ》の草紙を巻いて――鼓の転がるように流れたのが、たちまち、紅《べに》の雫《しずく》を挙げて、その並木の松の、就中《なかんずく》、山より高い、二三尺水を出た幹を、ひらひらと昇って、声するばかり、水に咽《むせ》んだ葉に隠れた。――瞬く間である。――
 そこら、屋敷小路の、荒廃離落した低い崩土塀《くずれどべい》には、おおよそ何百年来、いかばかりの蛇が巣くっていたろう。蝮《まむし》が多くて、に浸った軒々では、その害を被ったものが少くない。

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