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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 追掛けるのか、逃廻るのか、どたばた跳飛ぶ内、ドンドンドンドンと天井を下から上へ打抜くと、がらがらと棟木外れる、戸障子が鳴響く、地震だ、と突伏《つッぷ》したが、それなり寂《しん》として、静《しずか》になって、風の音もしなくなりました。
 ト屋根に生えた草の、葉と葉が入交って見え透くばかりに、月が一ツ出ています。――今の西瓜が光るのでした。
 森は押被《おっかぶ》さっておりますし、行燈は固《もと》よりその立廻りで打倒《ぶったお》れた。何か私どもは深い狭い谷底に居窘《いすく》まって、千仭の崖の上に月が落ちたのを視《なが》めるようです。そう言えば、欅の枝に這いかかって、こう、月の上へ蛇のように垂《たれ》かかったのが、蔦の葉か、と思うと、屋根一面に瓜畑になって、鳴子縄が引いてあるような気もします。

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