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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
したたかな、天狗め、とのぼせ上って、宵に蚊いぶしに遣った、杉ッ葉の燃残りを取って、一人、その月へ投げつけたものがありました。
もろいの、何の、ぼろぼろと朽木のようにその満月が崩れると、葉末の露と一つに成って、棟の勾配を辷り落ちて、消えたは可いが、ぽたりぽたり雫がし出した。頸と言わず、肩と言わず、降りかかって来ましたが、手を当てる、とべとりとして粘る。嗅いで試《み》ると、いや、貴僧《あなた》、悪甘い匂《におい》と言ったら。
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