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 『春昼』 泉鏡花を読む

 此処よりして見てあれば、織姫の二人の姿は、菜種の花の中ならず、蒼海原に描かれて、浪に泛ぶらむ風情ぞかし。
 いや、参詣をしませう。
 五段の階、縁の下を、馬が駈け抜けさうに高いけれども、欄干は影も留めない。昔は然こそと思はれた、丹塗の柱、花狭間、梁の波の紺青も、金色の龍も色さみしく、昼の月、茅を漏りて、唐戸に蝶の影さす光景、古き土佐絵の画面に似て、然も名工の筆意に合ひ、眩ゆからぬが奥床しう、そゞろに尊く懐しい。

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