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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 唯今お話を伺いました。そんなこんなで村の者も行かなくなり、爺様も夜は恐がって参りませんから、貴下《あなた》の御容子が分らないに因って、家つきの仏を回向かたがた、お見舞申してはくれまいか、というについて、推参したのでございますが、いや、何とも驚きました。
 いずれ御厄介に相成らねばなりませんが、私もどうか唯今のその茄子の鳴くぐらいな処で、御容赦が願いたい。
 何処といって三界宿なし、一泊御報謝に預る気で参ったわけで。なかなか家つきの幽霊、祟《たたり》、物怪を済度しようなどという道徳思いも寄らず。実は入道名さえ持ちません。手前勝手、申訳《もうしわけ》のないお詫びに剃ったような坊主。念仏さえ碌に真心からは唱えられんでございまして、御祈祷僧などと思われましては、第一、貴下《あなた》の前へもお恥かしゅうございますが、如何でございましょう。お宿を願いましても差支えはないでございましょうか。いくらか覚悟はして参りましたが、目のあたりお話を伺いましては、些と二の足でございますが。」

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