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 『婦系図』 青空文庫

 けれども、なぜか、母子連《おやこづれ》で学校へ観に行った、と聞いただけで、お妙さんを観世物《みせもの》にし、またされたようで癪《しゃく》に障った。しかし物にはなるまいよ、と主税が落着くと、いいえ、私は心配です。どこをどう聞き廻ったって、あのお嬢さんに難癖を着けるものはありません。いずれ真砂町様《さん》へ言入れるに違いますまい。それに河野と云う人が、他に取柄は無いけれど、ただ頼もしいのが押の強いことなんですから、一押二押で、悪くすると出来ますよ。出来るような気がしてならない。私は何だかもうお妙さんが、ぺろぺろと嘗《な》められる夢を見て、今夜にも寝ていて魘《うな》されそうで、お可哀相でなりません。貴郎《あなた》油断をしちゃ厭ですよ、と云った――お蔦の方が、その晩毛虫に附着《くッつ》かれた夢を見た。いつも河野のその眉が似ていると思ったから。――
 もっとも河野は、綺麗に細眉にしていたが、剃りづけませぬよう、と父様の命令で、近頃太くしているので、毛虫ではない、臥蚕《がさん》である。しかるにこの不生産的の人は、蚕の世を利するを知らずして、毛虫の厭《いと》うべきを恐れていた、不心得と言わねばならぬ。

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