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 『婦系図』 青空文庫

 もっとも河野は、綺麗に細眉にしていたが、剃りづけませぬよう、と父様の命令で、近頃太くしているので、毛虫ではない、臥蚕《がさん》である。しかるにこの不生産的の美人は、蚕の世を利するを知らずして、毛虫の厭《いと》うべきを恐れていた、不心得と言わねばならぬ。
 で、お蔦は、たとい貴郎が、その癖、内々お妙さんに岡惚《おかぼれ》をしているのでも可い。河野に添わせるくらいなら、貴郎の令夫人《おくさん》にして私が追出《おんだ》される方がいっそ増だ、とまで極端に排斥する。

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