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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「そりゃ、鶴谷殿はじめ、貴下《あなた》の思召《おぼしめ》しはさように難有うございましても、別にその……ええ、先ず、持主が鶴谷としますと、この空屋敷の御支配でございますな、――その何とも異様な、あの、その、」
 「それは私も御同然です。人の住むのが気に入らないので荒れるのだろうと思いますが。
 そこなんです、貴僧《あなた》。逆《さから》いさえしませんければ、畳も行燈も何事もないのですもの。戸障子に不意に火が附いて其処いらめらめら燃えあがる事がありましても、慌てて消す処は破れ、水を掛けた処は濡れますが、それなりの処は、後で見ますと濡れた様子もないのですから。

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