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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 尤も曰くづきの邸ながら、貴下《あなた》お一方は先ずともかくもいらっしゃる。人が住めば水も要ろうで、何も釣瓶の音が不思議というでは、道理上、こりゃないのでありまするが、婆さんに聞きました心積り、学生の方が自炊をしてお在《いで》といえば、土瓶か徳利に汲んで事は足りる、と何となく思ってでもおりました所為か、そのどうも水を汲む音が、馴れた女中衆《おなごしゅ》でありそうに思われました。
 唯《ト》台所の方を、どうやら嫋娜《すらり》とした、背の高い御婦人が、黄昏に忙しい裾捌きで通られたような、ものの気勢《けはい》もございます。
 何となく賑かな様子が、七輪に、晩のお菜《かず》でもふつふつ煮えていようという、さ豆腐屋――ん、と町方ならば呼ぶ声のしそうな様子で。

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