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 『人魚の祠』 青空文庫

 床の下……板縁《いたえん》の裏の処で、がさ/\がさ/\と音が発出《しだ》した……彼方《あつち》へ、此方《こつち》へ、鼠が、ものでも引摺るやうで、床へ響く、と其の音が、変に、恁う上に立つてる私の足の裏を擽《くすぐ》ると云つた形で、むづ痒くつて堪らないので、もさ/\身体《からだ》を揺《ゆす》りました。――本尊は、まだ瞬《またゝき》もしなかつた。――其の内に、右の音が、壁でも攀《よ》ぢるか、這上つたらしく思ふと、寝台《ねだい》の脚の片隅に羽目の破れた処がある。其の透間へ鼬がちよろりと覗くやうに、茶色の偏平《ひらつた》い《つら》を出したと窺はれるのが、もぞり、がさりと少しづゝ入つて、ばさ/\と出る、と大きさやがて三俵法師《さんだらぼふし》、形も似たもの、毛だらけの凝団《かたまり》、足も、も有るのぢやない。成程、鼠でも中に潜つて居るのでせう。

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