検索結果詳細


 『半島一奇抄』 青空文庫

 小暇を得て、修善寺に遊んだ、一――新聞記者は、暮春の雨に、三日ばかり降込められた、宿の出入りも番傘で、ただ垂籠《たれこ》めがちだった本意《ほい》なさに、日限《ひぎり》の帰路を、折から快晴した浦づたい。――「当修善寺から、口野浜《くちのはま》、多比《たひ》の浦、江の浦、獅子浜《ししはま》、馬込崎と、駿河湾《するがわん》を千本の松原へ向って、富士御遊覧で、それが自動車と来た日には、どんな、大金持ちだって、……何、あなた、それまでの贅沢《ぜいたく》でございますよ。」と番頭の膝《ひざ》を敲《たた》いたのには、少分の茶代を出したばかりの記者は、少からず怯《おびや》かされた。が、乗りかかった船で、一台大《おおい》に驕《おご》った。――主人が沼津の町へ私用がある。――そこで同車で乗出した。

 8/129 9/129 10/129


  [Index]