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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「料理番さん。きみのお手際で膳につけておくんなすつたのが、見てもうまさうに、香しく、脂の垂れさうなので、ふと思出したのは、今の芸妓の口が血の一件でね。しかし私は坊さんでも、精進でも、何でもありません。望んでも結構なんだけれど、見給へ。――窓の外は雨と、もみぢで、霧が山を織つて居る。峰の中には、雪を頂いて、雲を貫いて聳えたのが見えるんです。――どんな拍子かで、ひよいと立ちでもした時口が血に成つて首が上へ出ると……野郎で此の面だから、その芸妓のやうな、凄くしく、山の神の化身のやうには見えまいがね。落残つた柿だと思つて、窓の外から烏が突かないとも限らない……ふと変な気がしたものだから。」

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