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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「小児《こども》の時に、亡くなった母親が唄いましたことを、物心覚えた最後の記憶に留めただけで、どういうのか、その文句を忘れたんです。
 年を取るに従うて、まるで貴僧《あなた》、物語で見る切ない恋のように、その声、その唄が聞きたくッてなりません。
 東京の或学校を卒業《で》ますのを待かねて、故郷へ帰って、心当りの人に尋ねましたが、誰のを聞いても、どんなに尋ねても、それと思うのが分らんのです。

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