検索結果詳細


 『日本橋』 青空文庫

 やがてお千世が着るようになったのを、後にお孝が気が狂ってから、ふと下に着て舞扇を弄んだ、稲葉家の二階の欄干に青柳の糸とともに乱れた、縺るる玉の緒の可哀を曳く、燃え立つ緋と、冷い浅黄と、段染の麻の葉|鹿の子は、この時見立てたのである事を、ちょっとここで云って置きたい。
 序に記すべき事がある。それは、一石橋からこの火の番の辻に来る、途中で清葉に逢った前。
 縁日はもう引汐の、黒い渚は掃いたように静まった河岸の側で、さかり場からはずッと下って、西河岸の袂あたりに、そこへ……その夜は、紅い涎掛の飴屋が出ていた。

 944/2195 945/2195 946/2195


  [Index]