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 『日本橋』 青空文庫

 縁日はもう引汐の、黒い渚は掃いたように静まった河岸の側で、さかり場からはずッと下って、西河岸の袂あたりに、そこへ……その夜は、紅い涎掛の飴屋が出ていた。
 が、それではない。
 桜草をお職にした草花の泥鉢、春の野を一欠かいて来たらしく無造作に荷を積んだのは帰り支度。踵を臀の片膝立。すべりと兀げた坊主頭へ縞目の立った手拭の向顱巻。円顔で頬皺の深い口の大い、笑うと顔一杯になりそうな、半白眉の房りした爺さま一人、かんてらの裸火の上へ煙管を俯向け、灰吹から狼煙の上る、火気に翳して、スパスパと吸って、涎掛の飴屋と何か云って、アハハ、と罪も無げに仰向いて笑った、……その顔をこっちで見ると、葛木に寄縋って、一石橋から来たお千世が、

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