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『龍潭譚』 青空文庫
わが寝返る音に、ふとこなたを見返り、それと頷く状《さま》にて、片手をふちにかけつつ片足を立てて盥のそとにいだせる時、颯《さ》と音して、烏よりは小さき鳥の真白きがひらひらと舞ひおりて、うつくしき人の脛《はぎ》のあたりをかすめつ。そのままおそれげもなう翼を休めたるに、ざぶりと水をあびせざま莞爾とあでやかに笑うてたちぬ。手早く衣《きぬ》もてその胸をば蔽へり。鳥はおどろきてはたはたと飛去りぬ。
夜の色は極めてくらし、蝋を取りたるうつくしき人の姿さやかに、庭下駄重く引く音しつ。ゆるやかに縁《えん》の端に腰をおろすとともに、手をつきそらして捩向きざま、わがかほをば見つ。
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