検索結果詳細


 『龍潭譚』 青空文庫

 夜の色は極めてくらし、蝋を取りたるうつくしき人の姿さやかに、庭下駄重く引く音しつ。ゆるやかに縁《えん》の端に腰をおろすとともに、手をつきそらして捩向きざま、わがかほをば見つ。
 「気分は癒《なお》つたかい、坊や。」
 といひて頭《こうべ》を傾けぬ。ちかまさりせる面けだかく、眉あざやかに、瞳すずしく、鼻やや高く、唇の紅なる、額つき頬のあたり〓《ろう》たけたり。こは予てわがよしと思ひ詰たる雛のおもかげによく似たれば貴き人ぞと見き。年は姉上よりたけたまへり。知人《しりびと》にはあらざれど、はじめて逢ひし方とは思はず、さりや、誰にかあるらむとつくづくみまもりぬ。

 95/186 96/186 97/186


  [Index]