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 『婦系図』 青空文庫

 ふと例の煙草屋の金歯の亭主が、箱火鉢を前に、胸を反らせて、煙管を逆に吹口でぴたり戸外《おもて》を指して、ニヤリと笑ったのが目に附くと同時に、四五人店前《みせさき》を塞いだ書生が、こなたを見向いて、八の字が崩れ、九の字が分れたかと一同に立騒いで、よう、と声を懸ける、万歳、と云う、叱《しっ》、と圧えた者がある。
 向うの真砂町の原は、真中あたり、火定の済んだ跡のように、寂しく中空へ立つ火気を包んで、黒く輪になって人集《ひとだか》り。寂寞《ひっそり》したその原のへりを、この時通りかかった女が二人。

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