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 『日本橋』 青空文庫

 変な好みの、萌葱がかった、釜底形の帽子をすッぽり、耳へ被さって眉の隠るるまで低めずらした、脊のずんとある巌乗造。かてて加えて爪皮の掛った日和下駄で、見上げるばかり大いのが、もくもくとして肩も胸も腹もなく、ずんぐり腰の下まで着込んだのは、羆の皮を剥いた、毛をそのままにした筒袖である。
 これがもし対丈で、皮の靴を穿けば、樺太の海賊であるが、腰の下の見すぼらしさで、北海道の定九郎。
 見よかし羆の袖を突出し、腕を頤のあたりへ上げ状に拱いた、手首へ面を引傾げて、横睨みにじろじろと人を見る癖。

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