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 『化鳥』 青空文庫

放すが疾《はや》いか、猿は方々《はう/″\》を駆《かけ》ずり廻つて勝手放題な道楽をする、夜中に月が明《あかる》い時寺の門を叩いたこともあつたさうだし、人の庖厨《くりや》へ忍び込んで、鍋《なべ》の大いのと飯櫃《めしびつ》を大屋根へ持つてあがつて、手掴《てづかみ》で食べたこともあつたさうだし、ひら/\と青いなかからい切《きれ》のこぼれて居る、うつくしい鳥の袂《たもと》を引張つて、遙かに見える山を指《ゆびさ》して気絶さしたこともあつたさうなり、私《わたし》の覚えてからも一度《いちど》誰かが、繩を切つてやつたことがあつた。其時はこの時雨榎《しぐれえのき》の枝の両股《ふたまた》になつてる処に、仰向《あをむけ》に寝転《ねころ》んで居て、烏の脛を捕《つかま》へた、それから畚《ふご》に入れてある、あのしめぢ蕈《たけ》が釣つた、沙魚《はぜ》をぶちまけて、散々《さんざ》悪巫山戯《わるふざけ》をした揚句《あげく》が、橋の詰《つめ》の浮世床のおぢさんに掴《つか》まつて、顔《ひたひ》の毛を真四角《まつしかく》に鋏《はさ》まれた、それで堪忍をして追放《おつぱな》したんださうなのに、夜が明けて見ると、また平時《いつも》の処に棒杭にちやんと結《ゆわ》へてあツた。蛇籠《ぢやかご》の上の、石垣の中ほどで、上の堤防《どて》には柳の切株がある処。

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