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 『人魚の祠』 青空文庫

 見ると驚いた。ものは棕櫚の毛を引束《ひツつか》ねたに相違はありません。が、人が寄る途端に、ぱちぱち豆を焼く音がして、ばら/\と飛着いた、棕櫚の赤いのは、幾千万とも数の知れない蚤の集団《かたまり》であつたのです。
 早や、両脚が、むづ/\、背筋がぴち/\、頸首へぴちんと来る、私は七顛八倒して身体《からだ》を振つて振飛ばした。
 唯《と》、何と、其の棕櫚の毛の蚤の巣の処に、一人、頭《づ》の小さい、眦《めじり》と頬の垂下つた、青膨《あをぶく》れの、土袋《どぶつ》で、肥張《でつぷり》な五十恰好の、頤鬚を生した、漢《をとこ》が立つて居るぢやありませんか。何ものとも知れない。越中褌と云ふ……あいつ一つで、真裸で汚い尻《けつ》です。

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