24000回のキス

 もうだめだった。アンジェリークに触れた瞬間、それが判った。
 ぎゅっと抱き締めて二度と離したくない、それよりも。

 気がついた時、苦しい程にきつく抱き締めていた。
 唇は狂おしいほどに彼女を求め、突然の事に驚いてもがいていたアンジェリークの抵抗も、だんだんと弱くなっていった。
 目眩がするほどの激しい口付けに、アンジェリークは戸惑い、巧みな唇の動きに溺れていた。何をされているか判らない程に。
 オスカー自身、してはいけない事だと判っていた。が、身体はどうしようもなくアンジェリークを求めていた。激しい口付けに、多分彼女自身初めての事に何が起きてこれから何をされるか判っていない事も、どうしようもない事も判っていた。それでも、彼女が欲しかった。
 アンジェリークにキスの雨を降らせながら、オスカーの手はアンジェリークの腰からゆっくりと胸に回り、服の上から胸の頂きを探す。何枚も服を重ねているにも関らず、アンジェリークの敏感になりつつある身体がビクンと震え、その瞬間固く尖った胸の頂きに触れたのが判った。
「やめて」と言おうとしても、唇が塞がれていて言葉は出てこない。それよりも、巧みなキスと胸をさまよう手の動きに、頭の芯からぼうっとしてきて何も考えられない。アンジェリークの思考は完全に停止していた。
 上着が何時の間にか床に落ち、ブラウスのボタンが一つ一つ外され、気がつくとベッドに横たえられていた。ひんやりとしたシーツの感触に、アンジェリークは一瞬自分を取り戻し、これから何が起きるのか遅まきながら気付き、慌ててブラウスの前を合せようとする。が、覆い被さるようにしていたオスカーが両手を押え込み、結局何も出来ないままオスカーに下着姿を晒す事になってしまった。
「オスカー様……」
 泣きそうな声で囁く。と、オスカーが困った様に笑い、怖いか?と訊いてきた。
 コクン、と頷くとオスカーが意外な事を言う。
「俺も怖いんだよ、可愛いお嬢さん。」
 オスカーの恐れは、このどうしようもなく止められない行為の果て、アンジェリークに嫌われるかも知れない、と言う事だった。が、嫌われても良い、この一瞬さえあれば、と思っているのも事実だ。止めるつもりは全く無い。いや、アンジェリークがもっと抵抗すれば止められるかも知れない。が、アンジェリークの弱々しい抵抗は、オスカーを奮い立たせこそすれ、止めるほどではなかった。
「俺は今から君を抱く。」
 きっぱりと、そう宣言するオスカーにアンジェリークは目を見開く。
「止めても無駄だぜ。限界だ。君が欲しくて仕方が無い。…愛してる、アンジェリーク。」
 最後の一言がアンジェリークの心を決めた。
「…優しく……して下さいますか?」
 オスカーの返事は、この上なく優しいキスで伝えられた。

 唇から始まったキスは首筋に移り、少しづつ胸元へと下がって行った。
 ブラウスはとうに身体から離れ、薄い下着がオスカーの指で弄ばれていた。アンジェリークの身体は、羞恥と戸惑いでほんのりと桜色に染まっており、大きな瞳は潤み唇は震えていた。愛しさに胸を突かれ、瞼と唇に口付ける。
 胸元を隠すレースをそっと指で押し下げ、胸の蕾に触れる。と、たちまち固く尖り、そこをすかさず唇で吸い、舌で転がす。
 柔かい肌がオスカーの唇によって出来た紅い徴を点々と残し、増えて行く。胸に、腹部に、腕に脚に。
 最後の布がアンジェリークの身体から離れ、布で覆われていた部分が露になると、とっさにアンジェリークの両足が固く閉じられ、手で隠された。
 しかし、オスカーの力強い腕で膝を持ち上げられ両足が開かされ、今度は脹脛から順番に唇が上ってくる。柔かい肢の内側を吸われ、アンジェリークは思わず声を上げた。
 いやいや、と言う様に首を振るアンジェリークを、唇で捕らえる。
 何度目かのキスで脹れた唇を優しく吸い、そしてまた徐々に下に下りて行く。
 両手で胸を包み、零れた胸の蕾を軽く噛む。と、ビクンと身体が震え、啜り泣きのような吐息が漏れた。片手と唇でアンジェリークの胸を愛撫しながら、もう片方の手は腰にのび、指がそっと柔かく濡れ始めた最も敏感な部分を愛撫する。オスカーの指の動きに反応し、アンジェリークが腰をくねらせる。そして更に深く分け入るとアンジェリークの興奮は一挙に高まった。
 アンジェリークの未だ幼く固い身体がオスカーを受け入れる準備が出来たと知ると、熱く固くなっている自身をアンジェリークの身体に分け入れさせ、腰を動かし始めた。
 全く未知の物が自分の体の中に入ってきた感触に、アンジェリークは思わず身体を固くさせた。しかし、オスカーは既に奥深くまで入り、充分に濡れて迎える準備の出来ていた身体は、今まで全く経験した事の無い、突き上げるような動きに勝手に反応していた。
 ぎゅっとオスカーの首に腕を回ししがみ付いていたアンジェリークの唇から、何度も甘い吐息と叫びが漏れる。オスカーは腰を動かしながら、弓なりに反らされ朱色の花を幾つも咲かせた胸を揉み扱く。その感触に、またアンジェリークが叫ぶ。何度も、何度も。
 うつ伏せにし、胸を愛撫しながら背筋に唇を這わせ。アンジェリークの体中にオスカーの徴が刻み込まれて行った。
 唇に、うなじに、胸に爪先に、幾つものキスの雨を降らせながらオスカーの愛撫は果てしなく続いていき、愛の言葉が囁かれる。

「愛してる。」

 誰よりも、何よりも。

「君にいつまでもキスしていたい。」

 朝も昼も夜も。
 永遠に。

 24000回のキスよりも、愛してる。

−FIN−

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