さいしょ。
それに気付いたのは襖を開けた瞬間。
ぼそぼそと話し声が聞こえる、と思った時は特に気にせず、寝惚けた頭で夜中に近所迷惑だなぁ、そんな事を考えて。部屋の扉を開けて目の前の有り得ない位置にあった襖を開けた瞬間、は目の前にあるのがフローリングの床でなく畳である事に気がついた。
確か自分の部屋の前は、階段の踊り場とトイレのドアしかない筈。ぼんやりとそんな事を考えて、が目の前の畳から奥に目を向ければ、数人の男が険しい顔をしてこちらを見ていた。
よくよく見るとどう見ても今時の日本では例え正月といえども有り得ない姿形。ここは江戸村か太秦か。働かない頭でそんな事を考えつつ、自分が拙い状況にいる事は理解した。理解したがその状況を打開する良い案も浮かばない。結局一番無難で間抜けな案を取る事にする。
「…お取り込み中、失礼しました〜。」
「…Shit、wait!」
するすると襖を元通りに閉め、部屋の扉も閉め。は5数えてもう一度扉を開けた。
今度はフローリングの床。見慣れた風景。ホッと息を吐き再度閉めた扉に頭を預ける。
扉の向こうからはもう話し声は聞こえない。閉める間際に、止める声が聞こえた気がしたが、気のせいにした。
だって、有り得ないし。
和服、と言うよりそのものズバリ着物姿でしかも髷。そんな男がゴロゴロいてそれなのに英語? そんなバカな。
ただ、妙な引っかかりはある。はそれを考えて――止めた。
考えても仕方無い。既に道は閉じている。何より自分はトイレに行きたくて目が覚めたのだ。決して髷と英語の関係を考える為に起きたわけでは無い。何より眠い。
何もかも後回し、でなければ忘れることにしては当初の目的を果たそうと、部屋を出た。
閉められた襖を再度開けると、そこには誰もいなかった。
「間者でございましょうか。殿、暫し御前失礼仕りまする。」
言うが早いが退室する年嵩の男2人。制止する間も無い。
「…なぁ、殿。」
難しい顔で襖を見詰める青年に、もう一人が声をかける。が、考え事をしているからか、全く耳に入っていないようだ。再度声をかけるもそれも無視。
「…っの、梵天っ!」
苛立ち叫ぶと、相手から張り倒される。
「耳元で叫ぶんじゃねェッ!」
「だって返事をしないから!」
頭を擦りながら答えたのは、彼の従兄弟。永年の付き合いで慣れているからか、言っても無駄と悟っているのか、それ以上は続けず、先の問いの続きを口にする。
「さっきの、なぁ。間者? 見た事が有る気がするんだけど。」
「You too?」
「梵天も?」
「Ah…um、知っている気がする……Who's thats?」
暗がりの中、殆ど顔など確認出来なかったが、姿も声も何故か覚えが有る。何故か、懐かしい。
だが記憶を辿ってもそれが誰であるかは全く思い出せず、無意識に首を振る。
こんな事では駄目だ。もう直、戦が始まる。余計な事は考えるな。
首を振って雑念を払うと、傍らに控えている従兄弟を呼ぶ。
「成実。」
「なんでしょう、殿?」
「2人呼び戻せ。会議が進まねぇ。Hurry up!」
「Yes、sir。」
後姿を見送り、今後の作戦をもう一度反芻する。どうせ先陣は自分がきる。どう続けていくかは作戦次第。幸い相手は猪突猛進なので作戦次第では被害は最小限に抑えられるだろう。気にかかることと言えば向こうの忍は曲者揃いなので、それによって戦況が変わるかもしれないと言う事だろうか。そもそもこの戦、2つの勢力に割り込む形なのだ。下手をすると目的の人物と対峙する前に軍2つを相手にしなければならなくなるかも知れない。出来うる限り迅速に、且つ相手との対戦を楽しみながら勝ちたい。
「まぁ俺を楽しませてくれるなら……It too is fun。」
弱点を克服するか、利用するか。それは梵ちゃん次第でしょ。
突然思い出した。昔誰かが自分に言った言葉。
誰が、言ったのだろう。
面影は朧で。ただ、その言葉のみが鮮明に思い出された。手繰り寄せる記憶の中に、幼い頃の自分がいた。だが、記憶はそこで途切れる。
「Shit!」
思わず舌打ちすると同時に、廊下から足音が聞こえてくる。どうやら成実が戻ってきたようだ。
もう一度頭を振って雑念を追い払う。襖が開けられたときは既に平静で。上に立つものの顔になっていた。
奥州筆頭、伊達政宗の顔に。
序章みたいなものです。トリップする前にニアミスがあった、と言う……
バサラ書くのに一番苦労するのは、ダテムネの異国語だと思います。間違いあったら勘弁してください。トホホ。
下はブログに書いた時のコメント。
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戦国BASARAです。
遥かと同一主人公ですが若干設定が違っています。
夢小説もどきを書いている、と言ったとき「BASARAでどうやって愛だの恋だの乙女の夢を書くんだ」と言われたのが印象的でした。
ですから、私は別に恋愛がらみにしたいわけではないので。この主人公でどうやって、と言うのが若干……でも逆ハーに憧れがあるのも事実(笑)
そんな訳で、恋愛の絡まないBASARA夢もどきですが、気分によっては逆ハー風味になるかも知れません。内容は至ってシンプル。異世界に行って、出会って、また戻る。それだけです。ははは。