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さくら桜

 何かがおかしい、と気がついたのは多分何か彼等と の間で繋がりめいたものが出来たせいでは無いかと思う。

 土曜日、天気も良く学校も休みと有って は珍しく東京に来ていた。
 何故東京かと言えば、やはりこの季節桜を見なければ話にならないと言うか、先日卒業して下宿生活を始めた先輩が遊びに来ないかと誘ってくれたのが一番の理由だと思う。それと近々部活の都合で上野に行く予定があるので、それの下見も兼ねている。
「で、何処に行くの? 先輩と待ち合わせ何処でしてたっけ?」
「んーとね。何か、神田明神に美味しい甘酒屋があるとかで、そこで待ち合わせることになってる。」
「神田と言うと古本街だよね。…長くなりそうだなぁ。桜見る暇あるの?」
  も先輩も無類の本好きで、古本屋に立ち寄ろうものなら時間を忘れて過ごしてしまう。因みに、電気屋も同じ理由で何時間もいたりする。多分先輩と長く付き合えるのはそう言う所で訳も無く気が合うからだと思う。
「大丈夫。今回は甘酒だけって事になってるから。冬ちゃんもほら、花見は好きだし。東京住まいになったらこれから幾らでも古本街に入り浸れるからって言ってた。…やーい、ざまみろ、とも言われたけどね。」
「…先輩らしいねぇ……。」
 言いつつちょっと携帯を出して、メールを確認する。うん、時間と場所は合っている。
 今日の花見は の奢りと言うことになっている。何故かと言うと、先輩の卒業祝いと引っ越し祝いと、それと には先日のトリップお付き合いお世話様でした、というのも兼ねて。都合よく以前書いた小説の稿料も入ってリッチなので、 が奢ろう、と言うことになったのだ。
 暫く神田明神をぶらついて先輩を待つが、何時も早めに来る筈の人がなかなか来ない。おかしいな、と思った時に丁度メールの着信音。

 ゴメン、急用で少し遅れるから、先に浅草寺に行って待ってて。雷門前。

「あれ。遅れるから先に行けって。 ちゃん、雷門て行き方判る?」
「路線図見れば? 神田からなら千鳥ヶ淵に行くのかと思ったけど、流石に先輩だ。思いも寄らない所を指定する。」
「まぁ桜の名所は名所だし。じゃあ行こう? ……? ん?」
 この時、妙な感覚が の中に起こった。それは何時ものトリップの時と似た感覚。でも別に今の は物思いに耽っていた訳でも寝起きでもない。直ぐにそれが収まった事で、 はそれ以上深く考えないで、雷門に向かうことにした。


 慣れない電車を乗り継いで浅草寺まで来る。仲見世を冷やかしつつ、指定の雷門前で待つこと暫し、 の中で妙な感覚は再度復活し、何故かそれは先程より強くなっていた。
おかしい……。」
「具合悪いの?」
「いや、何だか例のトリップ癖の感覚が……。」
 そこまで言ったらあからさまに は厭な顔をした。
「ちょっと待て。お前、アレは自分の部屋限定だったろう。外でトリップって、そりゃ拙いでしょう。」
「うん、何かそういう感覚でも無い気も……でも、変。」
 言いながら何処かに休める場所が無いかと、辺りを見回し……固まった。
  の目線を追って、やっぱり固まった。
  にも見える、と言う事は白昼夢では無いらしい。ただ、 以外には見えないのか、誰も彼等を気にしていない様だが。
 声を掛けるべきか否か、迷っていたら先輩の声。
くん。遅くなってゴメン〜。親から電話が入っちゃってさ。」
「あ、冬ちゃん……。」
 放心した に先輩は気付いてるのか気付いていないのか。爆弾発言をした。
「で、キミ等の後ろのコスプレ軍団は何?  くんの知り合い?」
「冬ちゃん見えるのっ??」
  が先輩に食って掛かるのと、背後から声が掛けられたのは略同時だった。忘れようにも忘れられない、あの声。
「やっぱり か……Where is it?
「ぎゃーっ!! ダテムネーっっ!!」
 思わず、大声を上げて先輩の後ろに隠れた だが、身長差から全然隠れていない。あっさり捕まると、再度同じ質問をされ仕方なく答える。
「ま、政宗さん久しぶりですね。お元気ですか。ハハハ。」
「呑気に挨拶してるんじゃ無ェ。質問に答え……Says which?
「お元気ですか……。」
「違う、その前だ。」
 かなり真剣に訊かれ、 は自分の言った言葉を思い返す。お元気ですかの前、と言うと……久しぶり……あ。
「政宗さん。」
  をじっと見つめていた。うん、まぁ……そうだろうね。
くん。人の頭の上で何いちゃついてるの?」
 頭上で交わされる会話に呆れた口調で先輩が口を挟む。思わず、「断固、違います。」と言う。
Who are you?
 独眼竜は初めて見る顔に興味を持ったようだ。仕方ない、紹介しよう……と思ったけど、ここでは落ち着かない。まだ独眼竜の他、数名驚いたままの人間が居る。
 慌てて、その辺の店屋に皆を連れ込んで、少々早いが昼御飯にする事にした。
 店員さんは皆の姿に一瞬驚いたものの、「自主制作映画の撮影です。」と言ったら納得したようだ。
 幸い桜祭りが開催されていて変わった服装の人もチラホラいるせいか、余り深く追求されず団体だからと個室も用意してくれた。
 座って一息ついて、漸く は先輩に説明する余裕が出来た。


「えー、此方から伊達政宗さん、片倉景綱さん、伊達成実さん、真田幸村さん、猿飛佐助さん、武田信玄さん、それと……島津義弘さんと毛利元就さん、長曾我部元親さん。以上。」
「……戦国武将じゃん。」
 先輩の突っ込みは置いといて、次は先輩の紹介。
「此方は、 の学校の先輩で、浅生冬樹さん。今日は三人で遊ぶ約束をして此処浅草は雷門に来ています。OK?」
「浅草? 雷門?」
 戦国武将に浅草の説明をしても仕方ない。江戸は未だ彼等にとっては遠い未来の話だし、そもそも『江戸』と言う時代が来るのかどうかも疑問だ。そこで は彼等にとっては一番納得できる、しかも当然の説明をした。
「あのですね。皆さん、どう言う訳か知りませんが、 の世界。判りますか?」
の世界? …って異世界で未来って奴か?」
 左隣の姫親さんが真顔で訊き返すので頷く。
 先輩への説明は は彼等で手一杯。その間に先輩に説明をしてくれれば助かる。
 先輩には以前 の妄想で片付けられたが、その後も何回か繰り返されて半信半疑の状態だったようだ。まぁこれで の妄想では無い事は判っただろう。何せ、目の前にいるのはゲームの中の人物そのものなのだから。
様、先刻から気になってたんだけど、オレたちの名前……。」
 ナルちゃんが恐る恐る が答える前に先輩の爆笑。
「様っ?  くんが様付けで呼ばれてるのっ? お、おかしいっ! お腹捩れるっ!」
 大爆笑して畳の上でのた打ち回る先輩に、 だってその辺はおかしいと思ってるんだ。でも仕方ないじゃないか。改めてくれなかったんだから。ああ、それよりナルちゃんへの返事。
「呼べるよ。だって此処は は自分の世界では何の力もありません。普通の人間。だから名前は呼び放題だよ?」
「じゃあ俺の名前も呼べるのか?」
「呼べますよ、元親さん。」
 素直にそう呼ぶと姫親さんは物凄く驚いていた。と、左を向いていた の頭を無理矢理右に向かせる男がいる。独眼竜。
「もう一度、俺の名前も呼べよ。」
「なんでそんなに呼ばれたがるんですか。政宗さん。これで良い?」
「あっ、俺も、俺も。」
「某もお願いいたす。」
 何故か次々と挙手されていちいち名前を呼ぶ羽目になった。つ、疲れる……。


くんは、何? もててるの?」
「う〜ん、私からは何とも……。」
 先輩と には届かなかった。


 入った店が鰻屋と言う事で、折角なので皆にもうな重を奢ることになった。まぁ仕方ない。彼らに現金の持ち合わせはないし、あの世界で世話になった義理もあるし。良かった、稿料が入ってて。
 うな重は初めて食べるらしく、みんな興味津々で重箱の蓋を開けて鰻の蒲焼を珍しそうに眺める。箸をつけようとしないのは、どうしてかと考えたが、そう言えば彼らは戦国武将だったと思い出す。
「別に毒は入ってないですよ。入れる意味も無いし。もし食べて身体の調子が悪くなったら、それは食べ慣れないものを食べたからか、料理人の腕が悪いかのどっちかです。後者は先ずあり得ないので、食べて大丈夫ですよ。」
 そう言いながら手本のように と先輩は何も気にせず既に食べ始めていたし、 も箸をつけたとあって恐る恐る口にする面々。一口食べて、ぱあっと表情が明るくなる人間が何名か。
「美味しいでござる!  殿これは何と言う食べ物でござるか?」
「うな重です。鰻の蒲焼です。」
Ah〜、鰻か。ドジョウにしちゃ脂も強いし大きいと思ったぜ。蒲焼……開いて、焼いて? このタレが何とも言えないな。」
 流石に自分で食事を作る位に食に煩い独眼竜は、作り方が気になるらしい。食べながらタレの分析をしている。
 黙々と食べる人、いちいち聞いてくる人様々だが、とりあえず昼食は和やかに進んでいると思う。終わったあと、どうすればいいんだろう。
くん。食べ終わったら何処に行く? 私は予定は一応決めてあるけど。」
 先輩が食べながら に問いかける。予定、と言うのは花見の事だろう。 は一瞬悩んだものの、直ぐに返事をした。
「じゃあそれは冬ちゃんに任す。 は東京に詳しくないし。冬ちゃんの事だから、色々調べてくれてるんでしょ?」
  がそう言うと先輩は勿論、と言いつつ独眼竜たちを見て彼らの事は良いのか目で訊いて来た。
「独眼竜たちが何でこの世界に来たか判らないんじゃ、どうしようもないし。だったら最初の予定通り花見した方が良いよ。もしかすると花見をしている内に帰る方法が見つかるかも知れないし。」
「花見? 梅か。」
 独眼竜の問いに は口の中の鰻を飲み込んでから、桜と答えた。
 そう言えば昔は花見と言えば梅見の事だと聞いた気がする。いつ頃から桜に変わったかは知らないが、梅見が桜見に変わったのは確か武士の台頭以降だった気がする。とするとここで梅かと訊いた独眼竜は、貴族寄りと言う事か。
 花見の予定を一任されて先輩は立てていた計画を教えてくれた。
 今現在いるのが浅草、その後墨田公園に行って川沿いを歩いて、電車に乗って上野に行くらしい。上野には が用があるので組み込んでくれた。恩賜公園と不忍池を見たら終わり。
「で、どうせその人達も一緒に来るんでしょ? その様子だと。」
 先輩が に訊いてくる。その人達、と言うのは当然独眼竜たちの事だが『その様子』とは何だろう。
 ふと気付くと食事を終わらせた独眼竜と姫親さんが睨み合っていた。これの事だろうか。
「この人達のことは気にしないで。まぁ一緒に来るでしょう。」
「そうしたらせめて恰好だけは何とかしないとね。」
「その辺の店で着れそうなの買って来ようか。」
 ぼそぼそと相談。
「元就さんと島津公とお館様は絶対変えたほうが良いよ。もろに不審者だよ、アレじゃ。」
  の意見に賛成。
「姫親さんと独眼竜も変えた方がいいよね。でなきゃせめて帷子とか脛当てだけでも外すとか。」
「武器は絶対アウトだよ。どこかコインロッカーにでもしまう?」
 猿ちゃんとわんこはそんなに変えなくても大丈夫そう、と意見は一致した。
「景綱さんと成実さんは微妙だよね。いっそ全員着替えてもらう?」
「誰が金を出すんだ。」
に決まってるでしょう。」
「こ、稿料が……。」
 トホホ、と泣いてる間、 の背後では色々あったようだ。


「元親。その手は何だ。」
「そっちこそ、何やってるんだ。」
「お二方ともおやめください。 様に気付かれたらどうするんですか。」
「でも サン、自分の世界じゃ力が無いって言ってたから気付かれてもどうってこと無いんじゃないの?」
 ぱしぱしとお互いの手を抓ったり叩いたり。話し合いに夢中な は当然気付くことなく、背後の諍いにも気付かなかった。


 結局。全員の着替えは幾らなんでも無理、と言う事で最初の予定通り絶対に変えた方がいい人の分と微妙な人の分、服を買うことになった。幸い は背が高いので男物を大量に買ったところで不審には思われない。そして此処は浅草。店を巡ればおいさんや虎さんに似合いそうな着物も売っていた。はっきり言ってスーツより着物の方が似合うし、羽織だけでも結構見られる。
 もーりんは甲冑を外したらそんなに違和感がなくなったので、もうちょっと普通にしようと言うことでジャケットを着せてみた。かなり、似合う。
 皆、顔だけは良いので多少変わった恰好でもそういうファッションなんだ、と思わせる雰囲気がある。防具を外しても変に見える所は変えて貰い、大きなカバンを幾つか買ってそれに武器やら甲冑やらを詰め込む。
 結果、かなり見栄えの良い男達がでかい荷物を抱えて辺りをふらつく、と言う風情になった。
「…こんなもの?」
「こんなものでしょう。」
「妥当だね。」
 身の軽くなった自分達が珍しいのか、しげしげとお互いの服装を確認する面々。
「猿ちゃんなんか、迷彩でよかったよ。靴変えただけで後は殆ど変わんないしね。」
「ニッカポッカに見えなくも無いしね。」
 同じくわんこもライダースーツ風のジャケットのお陰で、腰の防具を外してシャツを一枚ジャケットの下に着るだけでかなり普通の青年になった。露出の多い人は一枚着てもらうだけでかなり良い感じ。
「じゃ、花見に行きますか。」
  がそう言うと、口々に同意の声が上がり、会計を済ませて店を出る。

 何だかこれからどうなるか判らないし、頭も痛いけど。
 楽しければ、良いか。
 そんな事を考えてぞろぞろ大人数で隅田公園へ向かって歩き出した。

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花見が書きたかっただけなのでこの後の展開全然考えていません。どうしよう。(笑)
一人称が辛いので三人称に直そうかと思ったんですが、それも面倒臭いのでやめました。 ----------
春で花見で番外編。現代編と言うべきか。
主人公現代帰還後です。
茄子姉の見た夢が元です。鰻屋でうな重を皆で食べていた、と言っていたのでそこが書きたかっただけで後は全部決まっていません。
続きは、そういうわけで考え付いたら……。
本編優先で一応考えてますので。(一応な!)

それにしても変な夢見るな、茄子姉。

景綱・成実が出ているのは、夢に出ていたらしいからです。あのゲーム画面の武将姿で。成実はちょっと違うらしいけど。 
本当はほぼ全員出ていたらしいのですが、それをやると本当に訳のわからない話になるので止めときました。お館様と島津公入れただけで大変なのに……いっそ伊達・真田・佐助だけでも良かったか?

因みに先輩は女です。(笑)主人公達のことは「くん」づけで呼びます。