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07謹賀新年

伊達巻初日の出







伊達巻

 朝っぱらから訪ねて来た を、丁度朝餉の準備中だったことも有り誘ってみると、ホイホイとついて来た。
 今朝は正月料理と言う事で、珍しく豪華な料理なのだがアイツは気付いているのだろうか。
 だが俺の心配は杞憂だったようで、 は出された料理に感心していた。そして の世界の正月料理の話となり、まぁ然程モノは変わらないようだ、と結論が出た。ただアイツは庶民の出らしいので、今目の前にある料理とは出され方が違うようだった。何でも3が日料理をしないでも良い様に、重箱に詰めておくらしい。合理的なのか不精なのか疑問は残る。
「伊達巻って好き?」
 いきなりの質問に、俺の箸が止まる。言った本人はと言えば、椀を抱えつつ金団を口に運んでいるところだった。
「何だ? ソレ。」
 質問に答えようにもモノが何だか判らず、聞き返すと意外そうな声。
「おや。知りませんか。魚のすり身と卵を混ぜて甘くして焼いた……。」
「簀巻き卵の事か。…嫌いでは無い。でも何でいきなり?」
 簀巻き卵なら判る。 の説明どおりの材料で作るものなら、ソレだろう。ただ名前は一致していないので少しくらいの違いはあるかもしれないが、まぁ微々たる物だろう。
 俺が逆に聞き返すと、 は件の簀巻き卵――アイツに言わせれば、伊達巻、と言う事らしいが――をつまんでいた。
 質問に答えようとはしているが、折角口に入れたものを直ぐに胃に送る気は無いらしい。ゆっくり噛み締めてから答えた。
「いや、伊達巻の語源が独眼竜の好物だったからって説と、帯の巻き方からって言うのと豪華だからって説があるから、それのうちのどれかな〜と思って。」
「…アンタ、本っ当にそういう余計な情報仕入れるのが好きだな。」
  という奴は、自分でも言っているがかなりの知りたがりで、何かにつけて色々と質問してくる。俺の知っている事なら答えられるが、知らない事も間々あるのでそういう時は少し悔しい。しかも俺より情報量が半端ではなく、実際知らない事は俺の方が多かったりもするので洒落にならない。
「まぁ良いじゃないですかさ、別に。」
「悪いとは言ってねぇだろ。」
 呆れて俺が言うと、 はいつも通りひらひらと手を振って笑った。
「それはともかく好きなんだ、伊達巻? じゃあ今度作って。」
 にっこり笑って言う だが、その内容に俺は眉を吊り上げた。
「何でそうなるんだ、普通『作ってあげる。』だろ!」
 曲りなりにも俺の好物だと知ったのなら、向こうが作るのが筋だと思う。思わず怒鳴ったものの、 は気にしていないようで「良いじゃん、別に〜。」と涼しい顔をしている。
 そんな奴にいつまでも怒っているのもバカバカしい。
「…そのうちな。」
 諦めてそう言うと、 はもう一度笑い、俺はと言えばその笑顔に何故か赤面した。


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おせち料理は食べても、重箱には入っていないと思うんだよね。…多分鯛の尾頭付きなんかも出てるんじゃないだろうか。よく判らんが。



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初日の出

 初日の出を拝みに行こう、と言う話になりどうせ見るなら海の上でと言う事で船を出す事になった。確かアイツは船に弱い筈だが、今現在見たところ特に気分が悪くなっているようではない。恐らく一緒に乗っている余計な奴等と騒ぎ疲れたせいだろう。ぐっすりと眠っているようで起こすに忍びない。十分睡眠が取れれば酔いも感じないかも知れない。
 この辺なら良いだろうと操舵を任された俺は日の出の時刻まで一眠りする事にしたが、迂闊に部屋で横になると寝過ごす可能性もあるので、甲板で柱に寄りかかって休むだけにした。
 やや暫くして人が動く気配に気付き目を開けると、 が俺の傍に来ていた。
 水平線を眺めながら、東の方向を見つめていきなり訊いて来た。
「元旦ってどういう意味か知ってます?」
「新年最初の日だろ?」
 当たり前の質問に当たり前のように答えると、 は人差し指を左右に動かして首を振る。
「初めて日が昇る日でーす。」
「本当か?」
「…さあ?」
「……オイ。」
 思わず突っ込むと は肩を竦めた。
「でも一年の元に日が昇るって書くじゃないですか。当たらずとも遠からじ、って事で。」
「まぁ『旦』てぇ字は元旦くらいにしか使わないしなぁ。」
「水平線の上に太陽があるのを表わしてるんですよね。」
「らしいな。」
 意味があるんだか無いんだか判らない会話の間に、空が白み始めてゆっくりと眩しい光がそそぎ始めた。いつの間にやら甲板には人が溢れて、一様に日の出を見守っていた。
 いつ見ても朝日と言うのは清々しい気分になる。次第に明るくなりゆく空に昇る太陽に手を合わせる。
「一年の計は元旦に有り。折角の御来光ですからお祈りしときましょう。」
 同じ様に も手を合わせて初日の出を拝む。それに倣う様に一斉に手を合わせる面々。
「無病息災、家内安全……。」
 口に出して今年一年の祈願を唱えると、それに続けて が言った。
「交通ルールを守りましょう。」
「何だって?」
 俺が聞き返すと、 は笑って船の安全を祈願したと答えたが、その向こうでぶっと噴き出した人間が居るのが何となく気になる。だが、折角の新年だし気にしない事にした。
 俺が仕方ないとばかりに肩を竦めて見返すと、 は笑いを返した。…コイツが何時も笑顔で居られるように、と心の中で願いを付け足した。


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よく考えたら、この話若しかして元親サン以外でも良いんじゃ(笑)一人称「俺」の人なら大体オッケー?



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07年フリー年賀状の小話2つ。元絵はこっち。⇒
手作りの伊達巻は美味しいです。マジに。甘さ控えめで上品な感じ。市販のはちょっと甘過ぎ〜。
元親サンの話、船には多分全軍大将が乗っているんではないかと……若しくは長曾我部信親くん。(この呼び方で大体の年齢は察しましょう(笑))因みに初日の出はここ最近見てません。