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April―出会い・後編―

「先輩方、ストーカーって言葉知ってますか?」
 うんざりした様に が政宗たちに告げる。
 理由は簡単で、政宗たちが事あるごとに と話す為に何処にでも現れるようになったからだ。特に教室には休み時間ごとといっても良いほど頻繁に訪ねてくるので、一体授業は受けているのかと疑いたくなる。
  に『ストーカー』と言われて顔を見合す4人。
「別に従兄弟を訪ねるのに理由なんていらねぇだろ? で、ちょっとついでにクラスメイトのアンタに挨拶してるだけだ。」
 悪びれもせず言う政宗に、 が苦笑した。流石にここまで開き直られると、怒るのも莫迦らしいと思うらしい。
「仕方の無い先輩方ですねぇ。言っておきますけど、 の中で先輩たちの評価はウナギ下がりですからね。」
 笑いながら言う の言った言葉を反芻し、眉を顰める。どうやら作戦は失敗したようだが、インパクトは与えているので今後もう少しアプローチの仕方を考えようと、それ以上言い返さずに の行動を見守る。
  は『開かずの間』をどういう交渉をしたのか使用する権利を貰ったらしく、毎日昼休みや放課後に部屋の掃除をしている。椅子に座って眺めているだけと言うのも退屈だし、少しは恩を売ってやろうと掃除を手伝う内に も少しは慣れてきたのか軽口を言うようになった。最初の内は殆ど話さなかった事を考えると格段の進歩だ。
 部屋に所狭しと置いてあった備品は使えるものはそれを使用する教室へ運び、壊れているものは捨てる。使用用途の判らないものはダンボールに入れて階段の脇に片付ける。それの繰り返しをしている内に開かずの間に有った備品の殆どが無くなり、残ったのは が『部活動に必要』としたものだった。
「さー、粗方片付いたし、後は壁とか窓とかをもう少し綺麗にすれば良いかなぁ。」
「蛍光灯が切れているみたいだから、それも取り替えた方が良くない?」
 伸びをしながら言う に佐助が提案する。言われて見上げた蛍光灯は確かに灯りが点いた事が無い。今は良いが、冬場など日が落ちるのが早い時期は灯りが無いと辛いだろう。
「まぁそれはこの部屋を綺麗に使えるようになって、今後の使用許可が貰えたら考えます。」
「何だ、許可を貰ったんじゃ無いのか。」
 政宗が訊くと、 は頷いた。
「貰ったのは掃除をする許可。一応今後使用したいとは言ったんですけどね、掃除をキチンとして使用できるようになってからまた考える、と言われちゃったんで。」
「じゃあただ働きになるかも知れないって事か。」
「まぁ良い機会だから片付けさせようって魂胆でしょうねぇ。別に良いんです、使えるようになったらこっちのもの。がっつり使用許可ももぎ取りますよ。」
「頼もしいねェ。」
 ヒュウと政宗が口笛を吹くと、 は肩を竦めた。
  が必要だと判断して部屋に残したものを見ると、何となくだが何をしたいのか見えてきた。
「望遠鏡に顕微鏡……理科の実験室かって感じだな。」
「生物部は既にあるのだから、もしかして地学部であろうか。」
「真田先輩、正解です。…も少し正確に言うなら天文部かな。」
「ああ、だから望遠鏡。」
 口径の大きい望遠鏡が珍しいのか佐助がしげしげと眺めながら納得する。
 そう言えば以前は天文部があったらしい、と聞いた事がある。ただ部員が減少しつつあるなか最後の部員が卒業して以降入部する生徒も無く、廃部になったらしい。かなり以前の話の筈だが、それにしては備品が綺麗だ。壊れた様子も無く埃も被っていない。誰か定期的にメンテナンスでもしていたのだろうか。そう指摘すると は笑って首を振った。
「いえ、それは私物です。…兄のお下がり。兄がやっぱり廃部寸前の天文部に居たんですけど、卒業する時にどうせ誰も使わないからって、顧問の先生から貰ったらしいんですよ。で、貰ったは良いけど流石にこの大きさだと邪魔でね。 に回って来たと言う訳。」
「そう言えば星にやたら詳しかったな。あと天気にも。」
「将来気象予報士の資格を取るって言っていたから。」
 元親の呟きに が答え、元親もうんうんと頷く。
 話しながら戸締りをして は政宗たちに言った。
「それで先輩方明日も来るんですか? …と言うか来る気満々ですよね。」
「来ちゃ悪いか。」
「悪くは無いですよ。まぁ猫の手も借りたいと言うのが本音? もう諦めましたから、御自由に。その代わり扱き使いますからそのおつもりでね。」
  は笑いながらそう言うと、鍵を返しに行くと言って職員室へ向かった。
 後姿を見送りつつ、政宗はこの後どうしようかと考えた。真っ直ぐ帰るのも良いが、どうせここまで掃除に付き合ったのだから、もう少し待って を家まで送って行くのも悪くないと思いつく。今のところ には帰宅時間に逃げられて、兄とアパートを借りて暮らしているのは知っているが住所までは把握していない。近頃は個人情報保護とかで学校側も簡単には教えてくれないので、地道に教えてくれるのを待つか、無理に訊き出すか盗み見るかしかない。同じクラスの成実なら連絡網を見れば判るのでは、と思ったが新学期が始まったばかりで未だそこまで整理されていないらしい。やはり自分たちで探るしかない。
 以前居候していた事のある元親は、実家の場所は覚えていたが住所も電話番号も覚えていない。一度礼状を書いてそれきりなのでそれも仕方ないといえば仕方ないが、聞いた時政宗は思わず「使えねェ奴。」と呟いてしまった。
「どうせなら寮に入ってくれれば良かったんだよね。そしたらアパートの住所調べるなんて事しなくて済むのにさ。」
「兄貴の世話をするのに一緒に暮らしてるんだろ、だったら寮は入らないだろ。」
 佐助の呟きに政宗が答える。
「でも寮だったら食堂とか談話室で話す機会もあるでしょ? 学年違うと休み時間と放課後使うっても限界があるからさー。」
「それもそうだ。」
 寮住まいの佐助と元親、幸村がうんうんと頷きあう。自宅から通学している政宗だけ頷く事が出来ず憮然とする。
「それじゃ俺だけ不利じゃねぇか。」
「不利? 何が〜?」
「……。」
 思わず呟いた言葉に佐助がニヤニヤと訊き返すが、答える事が出来ない。自分でも持て余している感情を形にする事が出来ずに、政宗は一先ず話題を戻して を待つ事にした。
 職員室から昇降口までは然程時間がかからない筈なのに、 は未だに現れない。若しかするととっくに別ルートから帰ったのだろうか、と思いついたがそれにしても昇降口を通らない筈が無い。まさか迷った訳でも無いだろう、と思いつつも探しに行く事にした。
「途中で行き違いになるかも知れねェから、成実は其処で待機な。」
「イエッサ〜。」
 従兄弟の珍しい執心に興味津々の成実は政宗の言付けに素直に従う。
 職員室までの逆ルートで を見かけることは無かったので、忘れ物でもあったのかと教室を探す事にした。その途中、政宗の目端に引っかかるものがあった。
Shit!
 舌打ちして窓辺に駆け寄り、そのまま勢い良く窓から飛び出す。何事かと一緒に行動していた元親も、政宗が駆け出した原因を見つけ慌てて後を追う。
 駆けている間に携帯電話を取り出し、幸村と佐助、成実に至急此方に来る様に伝えて政宗は目的の場所に辿り付いた。



 職員室へ鍵を返した は、昇降口に向かいながら考え事をしていた。
 好き好んで知り合いになった訳ではないが結構話も合うし、何より最初から警戒していたのを前面に押し出していたのが功を奏したのか、自分に対してこれと言って余計な口を挟まないのが良い。寧ろ自分の方が無理難題を押しつけている気がしなくも無いが、それは相手の好き勝手だから、と口実をつける。
 何故あんなに友人になりたがるのか理解に苦しむが、それは恐らく自分が彼等に対して一線を引いているからではないか、と思う。人気者の(であろう)彼等にしてみれば のように『なるべくならお近付きになりたくない』と最初から言うような人間は珍しくて逆に好奇心から近付いてきているんだろう。そう思うと失敗したかな、とは思うが今となっては仕方無い。 にしてみればそう言えば気分を害して近付かなくなるだろうと思って言った事だし、話してみれば案外話し易いしで、そろそろ根負けしたと言っても良いかな、とは思う。ただ一つだけ気になるのは、彼等が自分たちに人気があると言う事を、本当に理解しているかどうか、という事だ。通り一遍の人気ではなく、それこそ彼等に近付けるなら何でもすると思っている人間の多い事に果たしてどの位気がついているか。
 どうも気付いて無さそう、と言うのが の感想だ。自分たちに人気がある事を知ってはいても理解してはいない。それに気付けば、彼等から逃げないで向き合っても良い、と思うが……。
 そんな事を考えつつ歩いていた は、怒ったような声に呼びとめられたのに気付いた。
「ちょっと! 何を無視しているのよ。呼んでるでしょ!」
 怒った顔の女性徒は名前は知らないが顔は見た事がある――気がする。確か、隣のクラスの子ではなかっただろうか。
 気がつけば数人に囲まれていて、 は彼女たちの用件に思い当たり溜息をついた。
「ゴメン、ゴメン。考え事してて気付かなかった。…で、何の用?」
 取敢えず差し障りの無い言葉で質問すると、顔を見合せて何事か囁きあう。
「ちょっと話があるの。ついてきてくれない?」
「…これから帰ろうと思ってるんだけど。明日じゃダメ?」
「つ・い・て・き・て!」
 語気を強めて言う彼女たちに逆らう気は無いが、心の中で政宗に悪態をついた。
 囲まれながらついて行った先には、更に数人の女生徒が待ち構えていて を見るなり一斉に敵意を剥き出しにして口撃を始めた。
 彼女たちの言い分を話三分ほどに聞き流しながら、 はやっぱりな、と思う。本当に全く、身辺整理がなっていない。人気があるのを自覚しているならもっと周囲に気を配れ、放置するなと思う。だが同時に意外と大人しいな、とも思う。
  が予想していたよりはるかに軽い攻撃だ。手を出すに至っていない。いや、それはこれからなのかもしれないが、どうも詰る言葉の一つ一つをとっても余り悪意を表に出したことが無い人間の、考え無しの言葉だなと思う。感情に任せたストレートな一方的な思いこみによる発言は、 の予想の範囲内でこれと言って堪える言葉でもない。
 元々文武両道を称える学校に志願して入学するくらいだから、荒んだ考えとは縁が無いのかもしれない等と余計な事を考えているとそろそろ話が佳境になったのか、リーダー格の女性徒が語気を強め始めた。
 何とか言いなさいよ、と言われて「何とか。」等と言ったら火に油を注ぐんだろうなぁと思いつつ、 はずっと黙っていた。
 災害は通り過ぎるのを待つか、救助されるのを待つか。はたまたずっと遠くまで逃げ出すか。
 この場合どれだろう、と思っていると後ろから誰かが近付く足音に気付き、「救助隊到着。」と心の中で呟いた。



 校舎裏に連れ込まれてやる事は一つだろう、と思っていると案の定だった。
 政宗が駆けつけた時、丁度山場だったらしい。遠くからでも見知らぬ女生徒が を詰る声が聞こえる。
 政宗に近付くなとか、ちやほやされていい気になるな等、勝手な言い草に腹が立ったが、 が大人しく聞いているだけなのが気にかかる。確か元親の話では彼女は人見知り(には見えないが)だった筈。大勢に囲まれて萎縮しているのだろうか。
 集団の中心らしき女性徒が に手をあげようとした所で漸く現場に着き、その手を掴んで叫んだ。
「手前ェらいい加減にしろ! 止めねぇか!!」
「きゃーっ! 政宗様ー!」「せんぱぁい!」
 いきなり飛び出した政宗の姿に嬌声が飛ぶが、肝心の の反応が無い。見た限り手荒な真似はされていないようだが、精神的に参っているのかと心配になり、 の顔を覗き見ようと屈んだ所で周囲からまた嬌声が飛ぶ。もう一度怒鳴ろうとした所で が顔をあげたのに気がついた。
「大丈夫か、おい。」
「有難うございます、マサムネ先輩……受身、出来ますよね?」
What?
 にっこりと笑顔で政宗の名前を初めて呼んだ事に気付き、そして政宗にしか聞こえない様に呟かれた言葉に驚いて訊き返すと同時に、政宗の襟刳りを が掴んだ。
 足が払われたと同時に がぐっと腰を落として政宗の胸の下に体を滑らせると、そのままの勢いで政宗は宙に浮いて背中から地面に叩きつけられた。
 一瞬の事で何がなんだか判らなかったが、とにかく受身だけは取れた。周りで驚きのあまり立ち竦む女生徒たちを無視して、 は政宗に言った。
、言った筈ですよ。人気者には近寄りたくないって。避けて通りたいって言った筈ですよね? それなのに勝手に近付いてきて周りの女の子たちの勝手な妄想を膨らませるだけ膨らませておいてこの仕打ちですか。フォローが全然なってない。呆れました。」
「言うな、アンタ……。」
「軽蔑されたくなかったら、さっさと事態の収拾に取り組んで下さい。宜しいですか、マサムネ先輩?」
 冷たい視線を投げてそれだけ言うと、 は踵をかえした。周りを囲んでいた女生徒が、 の前に道を空ける。政宗が投げ飛ばされた事に驚いて何も言う事が出来ず、 がちらりと視線を向けると慌てて顔を逸らす。苦笑しつつ、 は集団の中心になっていた生徒に言った。
「言う相手を間違えないでくれる? 言うべき相手は じゃなくて、コッチの色男の方。本人に言えないのなら、文句を言う資格は無いよ。憶えておいて。」
 遠くから見ているだけの人間に、何を言う権利が有るのか。
  がそう言った途端、カッとなったのか平手が飛んだ。派手な音と共に周囲がシンとなり、手を出した方も自分の行動が信じられないのか、呆然としていた。
 政宗がカッとなって叫ぼうとしたと同時に、 が言った。
「殴って気が済むなら、これでお終いにしてくれる?  は二度も殴られる趣味は無いからさ。」
 感情が昂ぶって泣き始める少女を無視して は政宗に言った。
「女の子に手を上げるのは の趣味じゃないけど、次が有ったら判らないですよ。と言う訳で、アフターフォローお願いしますね、色男さん。それじゃ、サヨナラ。」
 にっこりと笑って踵を返して立ち去る を政宗は呆然と見送った。まさかこの状況で笑顔が出るとは思わず、かける言葉も失っていた所に成実の笑い声が響いた。
「すっげ、 さんカッコイイ〜。政ニィ、男前度で負けてるんじゃないの?」
「…全くだ。ったく、アンタ等聞いたろ? コッチが勝手に纏わりついて迷惑かけてるんだ、アイツの方が被害者なのに責められちゃ堪らねぇだろ。金輪際アイツに手を出すなよ、でないと……俺も怒るぜ。」
 服の埃を払いつつ政宗が言うと、殆どの生徒がしゅんと項垂れる。未だ何か言いたそうな者も居たが、政宗の表情に唇を噛む。口元は微笑んでいるが、目が全く笑っていない、本気で怒っている表情なのが見て取れたからだ。
 しょんぼりと項垂れる女生徒たちを残して、政宗たちは立ち去った を追いかけた。何処に行ったかは判らないが、未だ校内に居る気がする。
 そんな事を考えていてふと幸村と佐助の姿が無い事に気付く。
「おい、幸村と佐助は?」
「そう言えば……。若しかして を先に追いかけて行ったんじゃないか?」
 元親がキョロキョロと辺りを見回し、二人が居ない事を確認する。
 出遅れたか、と政宗が顔を顰めるとポケットに入れた携帯が鳴った。相手が佐助なのを確認してから怒鳴るように通話をオンにする。
「何処だ!  は一緒か?!」
『いきなり叫ばないでよ……、一緒だよ。屋上。』
 それだけ聞いて政宗は駆け出した。後から元親と成実も遅れぬ様に駆けて、三人は屋上へ向かった。



 政宗を投げ飛ばした後、言うだけ言ってスッキリした は、頬が痛いのに気付き、そう言えば平手打ちされたんだった、とぼんやりと思った。何かで冷やさないと腫れるかな、と考えていると脇からペットボトルが差し出された。
「……有難う。」
「いえいえ、どういたしまして〜。氷嚢代わりに、と思ってね。」
 佐助が苦笑しつつ立っていた。その後ろで幸村も神妙な顔をして を見つめる。
 何も言わないので、 も黙って頬にペットボトルをあてながら屋上へ戻る道を歩き始めた。その後ろから二人もついて来る。
 屋上に着いた所でそう言えば鍵は返したんだった、と思い出したが別に開かずの間に入る必要は無いのでそのまま屋上の壁に寄りかかりつつ頬をさする。冷えた分先程より痛みは引いたが少し腫れている気がする。
 その様子を見ていた幸村が、やっと言葉を発する。
殿……済まぬ。我等の配慮が欠けていたせいでそのような乱暴を……。」
 苦しげな様子に、 は笑ってはいけないと思いつつ、つい笑ってしまった。
「何もそんなに悲愴になる事無いですよ。配慮が欠けていたのは確かですけど、まぁ予想していた事だし別に は怒っては居ないです。怒ってはね。」
  が怒っていない、と言った所で本当だろうかと疑いの目を向けた幸村と佐助は、二度繰り返された言葉に別の含みがある事に気付いた。
「怒っては居ないけど……他にあるんだ?」
 恐る恐る訊ねると、 は肩を竦めた。
「怒っては居ないけど、呆れてます。折角警告しておいたのに、と思ってね。」
「…面目ない。」「ごめん〜。」
 心底反省している様子の幸村と、配慮が足りなかった事を悔いているらしい佐助に笑いかけ、 は再び頬を冷やす。やや暫くしてから階段を昇る足音が響き、政宗たちが現われた。
 やはり此方も何となく腫れ物を触る様な雰囲気なので は溜息をつきつつ政宗に話しかけた。
「アフターフォロー、しましたか?」
「…For the present。アンタの方が心配だ。」
より彼女たちのフォローの方が先。でないと同じ事が起こる。判ってます?」
「ああ。」
 短く答えた政宗は の態度が然程変わらない事にホッとする。忠告を無視して近付いて、逆に迷惑をかけたと言う負い目があるのでこれで縁を切られても仕方ないと思っていただけに、変わらず淡々とした様子に少し安心する。だが早目に の言うフォローをしておかなければ本気で縁を切られるだろう事も予想がつく。早々に手を打っておこう、と決意を固めて政宗は に話しかけた。
「それにしても、アンタ良く俺を投げ飛ばせたな。」
「先輩もちゃんと受身を取れましたね。いきなりだったからちょっと間に合わないかなー、と思ったんですけどね。」
 以前体育の授業で習った柔道の実技を試してみたんだけど、と は説明した。予め政宗に受身を取れるか訊いたが意味が伝わっていなかったらどうしようかと思ったとも笑いながら言う。
「彼女たちのお目当ては伊達先輩だから殴るにしろ蹴るにしろ、何かしら が迷惑してるってアピールする良い機会かと思って。でもまぁ本当に怒ってる訳じゃ無いから、こうして説明しようと帰りもせずに学校に残ってる訳ですよ。」
「怒ってはいないけど、呆れてるんだってさ。」
  の言葉に安心しかけた所へ佐助が苦笑まじりに言う。
「悪かった、以後こんな事がおきない様にしっかり説明しておく。それで良いか?」
「良いですよ。…言っておくけどこういう事は が最初じゃないかもしれないんだから、だったら で最後にしておいて下さい。」
「アンタで最後だ。」
 きっぱりと言いきる政宗に、不思議そうな視線を向けたが はそれ以上追及するのは止めた。神妙な顔をしているのだから本気なんだろう。
  は立ちあがって政宗たちに笑いかけた。
「まぁもうすんだ事だし、 も気が済んだしそっちも気をつけるって言った事だし、この件はこれでお終いにしときましょう。OK?
「アンタが被害者なんだ、アンタが俺たちに二度と近付くなと言っても仕方が無いと思っている。だから、これで終いと言うなら……俺はどうすれば良い?」
 政宗の最後の言葉に は驚いてしげしげと見つめる。これでお終いと言ったら嬉々として元通りになるかと思ったが意外と繊細だ。思わず楽しくなり顔が自然と笑みを作る。
「どうすればも何も、今まで通りで良いですよ。…いや、今まで通りじゃ無いか。」
「?」
「先輩達に対する の評価は地に落ちてこれ以上下がり様が無い事だし、これから上げてくれるんでしょ? だったらまぁ も逃げないで向き合わないとね。」
「…て事は?」
  の口ぶりに期待を込めて訊ねると、 はクスリと笑っていきなり政宗たち四人の頭を持っていたペットボトルで軽く小突いた。
 ポコペコボコベコ、と奇妙な音がしたものの、痛くは無い。
「これで今回の事は本当にチャラにしますよ、先輩方! こんなに面白い人たちと付き合わないのも勿体無い。 で良ければ『オトモダチ』になりませんか?」
 にっこり笑う に、「最初からそう言ってるだろう。」と誰かがツッコミを入れて、その言葉に は楽しそうに笑った。
 その笑顔に政宗は自分が何だか負けた気がした。
 何に負けたのかは判らないが、とにかく負けた、と思う。だが今まで胸の奥に痞えていたもやもやは消えていて、その代わりほんのりと何か違う別の感情があるのに気がついた。それが何かは判らないが自分が負けた、と思う気持ちに関わりがある気もする。
 持て余し気味の感情を無視して、政宗は に手を差し出した。
「お手柔らかに頼むぜ、 チャン?」
 差し出された手を取ると、「此方こそお手柔らかに。先輩方。」と が応えた。



A boy meets a girlって奴じゃないかなぁ。本人全然自覚無いけど。」
 小十郎に件の事を説明した成実は、そう結論付けて「政ニィにはナイショな。」と笑った。


END

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そんな訳で始まる楽しいスクールライフ。