猿の惑星


PLANET OF THE APES

TOPへ戻る

作成日 2002/4/7

SF映画史にさん然と輝く傑作、と形容してもいささかもオーバーではない。この’67年
と製作(’68年公開)の作品は、今みてもいささかも色あせない寓話性と衝撃度を誇って
いる。’67年といえば『ミクロの決死圏』という傑作は既にあったが、『2001年宇宙の
旅』登場以前。未だ“SFは子供向けのキワもの”の風潮が大勢を占めていたときに、あえて
勝負をかけたプロデューサー、アーサー・P・ジェイコブスの読みの深さには脱帽する以外に
ない(資料によれば、ジェイコブスがピエール・ブールの原作を買いとったのが’64年。
まだ出版される前だったというから、ますます敬服してしまう。)

ジェイコブスの功績はこれにとどまらない。映画化するにあたり、テレビ・シリーズの『トワイ
ライト・ゾーン』の仕掛け人ロッド・サーリングに脚色を任せたのだ(『いそしぎ』のマイケ
ル・ウィルソンと共同)。スティーブン・スピルバーグが映画でオマージュをささげ、もはや
カルトと呼ぶにふさわしい同シリーズは、そのウィットに富んだストーリーテリングとオチで、
SFをポピュラーなものとした、いわば“功労者”。毎回完結、ホスト役のサーリングがちょと
した前ふりをしてからドラマに入るスタイルで、お茶の間を“ミステリー・ゾーン”(同シリーズ
の邦題)に変え、高い人気を博した。そのサーリングがからんだのだからひとすじ縄で終わるはず
がない。(但しハリウッドの常として脚本の書きかえがかなり行われたことは留意されたい。
だから正確にはサーリングの香りが漂うと書くべきだろうか。)

“スウィフト流の諷刺精神と豊かなイマジネーションが渾然と融合した力作”(アトランティック誌)
アメリカ公開時の評は、こうした賛辞が相次いだというが、まことここにおける寓意性は『ガリバー
旅行記』もまっ青である。監督のフランクリン・J・シャフナーはテレビで『プレイハウス90』や
『弁護士プレストン』などの演出が注目され、映画界に入った人。当時はシドニー・ルメットなどと
並んで“ニューヨーク派の鬼才”と呼ばれたりもしていたが、映画では『ダブルマン』など今ひとつ
“当り”がなかった。だから、この作品にかける意気込みは高く、とりわけストーリーを貫く知性
をいかにかみくだくかに腐心したという。その成果は、冒頭の猿たちが登場するあたりのたたみ
かけるようなテンポから始まって、ラストの衝撃まで、パワフルな演出に結実している。(ちなみに
公開時はこのラストは秘密にされていた。筆者自身も新宿のミラノ座でみたとき、思わずうなって
しまったことを覚えている。)

ジェイコブスがこの作品に賭けたことは前述したが、彼はSFを“A級”で売るために、チャール
トン・ヘストンをかつぎ出した。プロデューサーの実力と片づければそれまでだが、当時トップスター
はSFに出ないというセオリーのあったことを考えれば、これは“事件”といっていい。公開時の
プレスをみると“これでSF映画は単なるプログラム・ピクチャーの時代から脱した”とまで書かれ
ているのである。ヘストンが出演したぐらいでオーバーな、なんて思われるかもしれないがわずか
24年前はそういう時代であったのだ。『十戒』『大いなる西部』、『ベン・ハー』といった大作に
出演し続けたヘストンについては、もはやご紹介の要もなかろうが、皮肉なことにこの作品以後、
『ソイレント・グリーン』や『オメガマン』とSF作品出演が続くことになった。

肉体派ヘストンの相手役は“ミス・ユニバース2位”からショー・ビジネスに入ったリンダ・ハリソン。
それまでは『ジェリー・ルイスの月世界宙返り』に出た程度の“彩り”女優だったが、ここでも豊か
な肢体を披露するだけの役柄。むしろメイクを施した猿たちに芸達者が選りすぐられている。モーリ
ス・エバンス、ロディ・マクドウォール、キム・ハンターといった辺りが、4時間もかかるスペシャ
ル・メイクに耐えて演じている。演技派でなければ猿は演じられない、あのメイクを通して微妙な
感情表現をするのは半端ではできないという主旨のもとのキャスティング。なるほど、今みてもみごと
なものである。

スペシャル・メイクにあたったのがジョン・チェンバース。第2次世界大戦中に義足、義手の製作に
かかわり、戦後は義手、義歯をつくる技術を磨き、映画界に入った。この作品では、通気性のよい
フォームラバーの一種を基本に工夫を重ねたという。スタッフを140名使って連日の作業。アカデミー
特別賞を与えられたのも当然の“労作”である。

音楽はジェリー・ゴールドスミス、ユタ州を“猿の惑星”にしたカメラは『華麗なる激情』のレオ
ン・シャムロイ、美術、ウィリアム・グリーパー。これはニューシネマ時代にハリウッドが放った
永遠不滅のエンターテイメントなのだ。(稲田隆紀) フォックスビデオ 「猿の惑星」より




ご意見ご感想等ありましたら下記へメールをください。
asanami@mxb.mesh.ne.jp


戻る