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「星組最後の戦い」前編



「星組V字展開、各機の判断で軽機兵を突破、
ルンメニゲを包囲攻撃し作戦地点まで誘導せよ」

「「「「「「了解」」」」」」

「銀の月」レニ・ミルヒシュトラーセ、
「地中海の赤い風」ソレッタ・織姫、
「バイエルンの狂戦士」ルキフェル・ルートヴィヒ、
「最速のパリジャン」エルメス・マイヨール
「天翔るジェントルマン」サー・ローレンス・スターレット
「鋼鉄のパリジェンヌ」アニェス・エトアール

の各機は散開し軽機兵を攻撃し始めた。

V字の最深部には、「死神」倉木北斗の隊長機がある。

星組は賢人機関が集めた霊力保持者の中でも特に強大な霊力を
持つ者を集めた対魔特殊部隊である。

冷静な判断力と強力な中距離攻撃を持つレニ、

ムラはあるが、近隣の敵を華麗に葬り去る織姫、

圧倒的な破壊力で味方も含めて近接する者全てを叩きのめすルートヴィヒ、

軽快なスピードで敵中を駆けめぐるアウトボクサー、マイヨール、

唯一飛行能力を備え、上空からの奇襲を得意とするローレンス。

女性ながら幅広の大剣を変幻自在に操るアニェス。

機動力は並以下だが、広範囲の魔将クラスを一気に殲滅する能力を持つ北斗。

それぞれが強力な霊力の持ち主であり、癖のある性格の持ち主である。
それだけに、戦法は個人技中心であり、隊長は単に霊力が最も大きい者が
務めるに過ぎない。

対する魔将ルンメニゲは圧倒的なスピードと切れ味の鋭い刀剣技を持つ。
魔による欧州制覇を狙う魔皇ベッケンバウアーの片腕の一人である。

スピードによる突破を得意とするルンメニゲの性は本来突撃型である。
したがって、味方の陣が縦横に切り裂かれているのを見ると
自ら前線に飛び出してくる傾向がある。

今回は、ルンメニゲを誘い出し北斗の必殺技
「黄泉比良坂(よもつひらさか)」で軽機兵ごと葬り去るという
効率重視の作戦である。

「各機、せいぜい派手に暴れてルンメニゲを誘い出せ。
ただし、必要以上に深入りはするな。特に、ルートヴィヒと
織姫。君らは戦いに没入しすぎる傾向がある」
「ふん、気を付けるよ。覚えてればな」
「余計なお世話です。これだから日本人の男は嫌いよ」
「・・・レニ、織姫のフォローを。ローレンスはルートヴィヒを頼む」
「「了解」」

ルンメニゲの陣は、たった6機の星組にいいように切り崩されている。

「ちょこまかと小賢しい。叩きのめしてくれるわ」

ついにルンメニゲが動いた。
圧倒的なスピードである。
星組最速の機動力を持つマイヨールでさえ、振り切られてしまう。
ルンメニゲはまず移動線上に出てきたルートヴィヒに襲いかかる。
ルンメニゲの剣は鋭い。あっと言う間にルートヴィヒの右手を切り裂いていた。
だが、ルートヴィヒも負けてはいない。圧倒的なパワーの斧による一撃を
叩き込んでいた。
ルンメニゲの動きがやや鈍る。
しかし、それでもルンメニゲの剣は次撃、三撃と加えていく。
ルートヴィヒは退かない。
ルンメニゲにダメージを与えるも、力の差は明らかである。
そこへローレンスが急降下してまず一撃ルンメニゲにボウガンを当てる。
そして、一瞬の隙をついてルートヴィヒを抱え上げ安全圏に投げ捨てた。
戦闘モードのルートヴィヒに必要以上接触することは攻撃されることを意味してい
るからである。

後方からマイヨールが追いつき、追い抜きざまにレイピアの一撃を加える。
怒るルンメニゲが猛然と追う。
待っていたアニェスの素早い突きとレニの横やりが入る。
背後の少し離れた場所からは織姫の攻撃。
一撃を加えたアニェス、レニ、織姫は素早く離脱。

ルンメニゲの突破スピードを適宜殺しながら、北斗の攻撃範囲に誘導する。
ルンメニゲがエリアに入った。
だが、まだ北斗は黄泉比良坂を放たない。
ルンメニゲに確実に技を当てるタイミングを計っている。

「10秒後に全機離脱。ローレンスのみ13秒後までルンメニゲを上空より牽制せよ。
その後、急上昇して離脱。15秒後に黄泉比良坂を放つ」
「「「「「「了解」」」」」」

だが10秒後、織姫が遅れた。
ルンメニゲにあと一撃と思っている内に
反撃を食らったのだ。

レニがフォローに戻り、ローレンスが上空から牽制を加え急上昇。

15秒後、北斗は黄泉比良坂を放とうとする。

「待って、まだエリアを出てないわ」
「ダメだ、逃してしまう。待つのは1秒」

16秒後、「黄泉比良坂」が放たれた。
エリア内の大地から黄緑色の輝きが放たれる。
その光に包まれたルンメニゲの機体は辛うじてエリア外に出た指一本を残し、腐食
して崩れ落ちた。
織姫、レニの機体も一部その光を浴び、背面の装甲の一部が崩落している。

将を失った残存の軽騎兵を全て掃討して星組は帰投した。




「どういうこと?!私がまだエリアから出ていないのに攻撃するなんて!
危うく死ぬところだったじゃないの!」

「ルンメニゲを討つことが最優先事項だった。あそこで彼をしとめ損なうと
星組全体にもっと被害が出ていただろう。簡単な計算だよ。
第一、私の機体は黄泉比良坂のあとは150秒間補助蒸気機関による
通信以外の一切の機能が停止するんだ。魔将クラスに一度外すと
次はないと思って良い。私も犬死にはしたくないんでね。

それに最初に言ったはずだ。深入りはするなと。
君が生きているのはレニとローレンスのおかげだ。
彼らに感謝するんだな。
それにしても君のフォローのためにレニの機体にまで
損傷を受けてしまった。修理、調整にはしばらく時間がかかるだろう。
その間に敵襲があればどうする。少し反省したらどうだ?」

北斗はそう言い捨てると自室へ引き取った。

織姫は悔しさの余り、顔色が蒼白になり血が滲むほど唇をかみしめて立ちつくす。

「こ、これだから日本人の男は。自分勝手で冷酷で・・・」

北斗の言っていることは基本的に正しい。
織姫はそういうのが精一杯だった。

「あたしは東洋人って何考えてるのか分からなくて神秘的だから、
結構好きだけどな。それに彼、顔はなかなか美形よ」

何かズレているアニェス。

「済んだことは仕方ない。今は冷静さを取り戻すのが重要だ」

冷静なレニ。

「そうだよ、織姫。厭なことはさっさと忘れちまうに限るさ」

軽いエルメス。

「ま、モタモタしてた君が悪いんだよ」
「おやおや、熱でもあるのかね。私に手間をかけさせた
誰かさんのセリフとは思えないね」
「なんだと?」

自分を棚に上げるルートヴィヒと
皮肉なつっこみを入れるローレンス。

星組の面々は各々の部屋に引き取る。

だが、織姫は全員が引き上げても尚、
北斗の部屋のドアを睨み付けていた。




「ルンメニゲ隊が全滅いたしました」
「何だと?プラティニ、ロッシ、キーガンだけでなく、
我が片腕ルンメニゲまでもが、たかだか7機の部隊にやられたと申すか」
「御意」
「ふむ・・・考えを修正せねばならんようだな。次は余も近衛隊を率いて自ら出よう」
「さすれば必ずや勝利は我らの手に。このミュラー命に代えましても陛下をお守り申し上げます」
「よい。貴様は前線にいてこそ、その真価を発揮する。
全魔将中最高の撃破数を誇る貴様の実力、存分に振るうがよい」
「はっ」
「出陣は0300時」
「かしこまりました」

魔皇ベッケンバウアーと腹心ミュラー、そして星組最後の戦いが近づいていた。

(次へ)


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