冥い海が波打っている。 形を変え蠢く黒々とした水は、何かの生き物のようだ。 気が付くと自分の体はその波の中に漂っている。 水が腕に脚に粘りつき、 自由に動かすこともできない。 息が苦しい。 このままでは溺れてしまう。 誰かがどこからか何かを叫んでいる。 こちらを制止しているように聞こえる。 目が覚めた。 脂汗が金の髪を額に張り付かせている。 体がだるい。 起きても頭がぼんやりとする。 「どうしたというの、私の体は」 マリアは暗闇で不安におののきながらつぶやいた。 非常警報が帝劇に響きわたる。 出動だ。 大神が巴里に旅立ってから、5度目の春が来ようとしていた。 その間、幸いにも帝都にはこれといった大きな事件は起きなかったが、 今年に入ってから徐々に不穏な気配が漂い始めた。 「黒之巣会」、「黒鬼会」の残党が手を組み「二黒会(じごくかい)」を名乗ったのだ。 彼らは遺された魔装機兵を使って蠢動を始めていた。 もっとも、残党と言っても霊力があるわけでもなく大したことは出来ないのだが、 いずれその勢力を糾合して新たなる野望を抱くものが出ないとも限らない。 小まめに叩いておく必要があった。 それゆえ花組の出動も今年に入ってから、すでに十数度を数えている。 「もう、いい加減にして欲しいデース。 全然手応えのない雑魚のくせにうじゃうじゃと 下品に湧いてくるのは許せませーん」 なんだか発言内容がラリっている織姫。 「全くだ。あんなんじゃあ、腹ごなしにもならねえぜ」 「まあ、あれだけ牛みたいに食べれば、腹ごなしになる敵なんてそうはいないんじゃなくて?」 「あんだと?このうなぎ女!あたいに喧嘩売ってんのか?」 いつもの二人。 「お止しなさい、二人とも。行くわよ」 マリア。 「「はいはい」」 「でも確かに、こんな言い方はいけないんでしょうけど、 なんだか張り合いがありませんね」 さくらも少し不満げだ。 「そやな、うちの発明の実験台にするまでもない雑魚ばっかりやし。 あれやったら生身の大神はんの方がよっぽど使いであるわ」 身もフタもない紅蘭。 「なんだか退屈だよう」 「でも敵が小さい内に叩いておくのは必要なことだよ」 「だってぇ」 「・・・行くよ」 アイリスとレニもいつも通り。 「「「「「「「「帝国華撃団参上」」」」」」」」 いつもの戦闘、そしていつもの勝利。 だが・・・。 戦闘終了後、マリア機がゆっくりとくずれ落ちた。 (次へ) |